鹿島美術研究 年報第1号
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がそし現われる。たとえば「田舎道」である。これは風景画に人間的要素を与えるためのな舞台であると共に,構図の上でも遠近法を導入する手段ともなり,また道を画面の下辺で切ることによって,絵を見る者に道の上にいて風景に導き入れられるような印象を与える。道の傍には小屋ないし目印となるような大木があり,そこで人々が出会い,背を向けて道を行く人は視線を奥へと導く。このような構図のパターンは,一つのパターンであることが忘れ去られてしまうほどである。このようなパターンは,人が自然を見るときのヴィジョンをも規定してしまう。よって,人はそれが与えられたヴィジョンであることを意識せず,自発的に選びとったものであると錯覚しがちであるが,すでに使い古されたパターンの一変形でしかないのである。「田舎道」に限らず,19世紀まで続いているこのようなパターンは幾つかあり,それらはすでに述べた構図特有の造形的効果の他に,人々に慣れ親しんだ風景を見るようななつかしさすらえる。丘」「渡し舟」などの古いパターンに加えて「川と釣舟と漁師」,「丘へのぼりつめる道」などというパターンが生れたが,これらは広い意味では従来のもののヴァリエーションとして解釈されるべきであろう。アップされ,点景を減らしている。しかし,そこに現われる個々のモティーフは,決して19世紀固有のものではなく,17世紀のものかそれの焼直しである。同時代の生きた風景を表現しようとした17世紀に比べて,あえて同時代性を排し,昔ながらのモティーフで近代化の波を拒否し,いわば汚されることのない自然を描き続けようとしたところに,彼らの自然風景に対する思い入れを見ることができるのである。(2) 鎌倉時代造像銘記の調査研究研究代表者:東京芸術大学美術学部教授水野敬三郎共同研究者:慶応義塾大学文学部教授西川新次東京芸術大学非常勤講師副島弘道「17世紀のオランダ風景画」で分類した主要な風景画のパターンが繰り返17世紀オランダから印象派の初期に至るまで,きわめて巾広く利用され,そのために19世紀においても,このようなパターン=図像は大いに利用された。「田舎道」や「砂19世紀風景画の全体の構図感覚は,17世紀に比べてモティーフを減らし,クローズ国立博物館研究員山本勉-38-

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