く,ポンペイ以外の地中海域における前三〜一世紀の絵画および第二様式の概念構成を有する絵画すべてのカタログ化を研究の基礎としているのである。その作業かしていない現段階においての,研究内容に関する報告は,あくまでも中間報告に過ぎないことを考慮されたい。げられる。1)画面全体の枠組が建築的要素によっていること,2)この建築的要素は実在する建築のごとき構築性を有していること,3)ヘレニズム建築がもつ規範として,また,装飾としての古典的なオーダーが認められること,4)描かれている建築的要素と人間像の間に古典的均衡が保たれていること,5)主調色は中間色系ではなく原色系,である。以上の要素は,典型的なポンペイ第二様式壁画である「クリフ゜トポルティコの家」,「ラビリントの家」,「ファウノの家」,「秘儀荘」などの例には適応する。しかし,「メナンドロの家」,「祭司アマンドゥスの家」など,第二様式以外には帰しがたい壁画ではあっても上記五点に適応しない例がある。例えば「メナンドロの家」の場合,第一項から第三項までは該当するが,残りの二項の特徴を見出すことはできない。「祭司アマンドゥスの家」でも第二項と第四項に適応する特徴はない。少なくとも現在まで整理した基礎資料のうち,上記五つの特徴すべてを有しているポンペイ壁画は十件に満たず,むしろ例外的であると考えた方が妥当であろう。このことは,ポンペイ以外の壁画を考察すると更に顕著である。アレクサンドリア出土,ムスタファ・パシャの墓のファサード及び墓室を装飾する壁画は,構築性を有する建築的要素によって枠取が施されている。ところか,この枠取の中に描かれた馬に乗る人物の群像は,所謂コンペンディアリア(便宜的)な描法によっており,Mauが主張する強い色彩を用いた彫塑的表現とは対極にある描法なのである。しかし,ポンペイ第二様式が他の三様式と異なる大きな特質は,建築的枠組を壁面に描くことによって,そこに「構築的」空間を表現することなのである。この絵画的空間表現は,枠組によってだけではなく,その中の画面でも意図されていることなのである。その場合,古代印象主義とも呼ばれるコンペンディアリアな描法は,空気遠近法によって,また,ハイライトや明暗法によって空間性を他の描法よりも自由に表現できるのである.したがって,アレクサンドリアの壁画に認められる描法は,ポンペイ第二様式の本質的特徴に反することはないのである。と言うよりも,むしろ,第二様式がその様式上の特色を発揮するために必要な描法なのである。そればかりでなく,この描法にA.Mauによれば,ポンペイ第二様式の特徴,つまりその構成要素とは次の五点が挙-53-
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