鹿島美術研究 年報第1号
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は第二様式の起源問題も含まれている。ポンペイの第二様式の起源をどこに求めるべきかは,ヘレニズム・ローマ絵画史研究の重要課題ではあるが,ヘレニズム絵画全体を対象とするなら,アレクサンドリアもしくはプトレマイオス朝の絵画に求めるべきであろう。なぜなら,ヘレニズム絵画諸流派の中で最も宮廷美術としての性格を強くもち,しかも,空間を表現するための様々な課題を早期に解決した流派だからである(この点に関しては,尚,十分な研究が必要とされる)。ポンペイに第二様式が,前一世紀に出現し普及する背景には,その経済的繁栄とそこから生まれたヘレニズム社会に対する憧れがある。種々の条件によって(ポンペイがデロス島に商業基地をもっていたというような),アレクサンドリアよりもペルガモンと密接な関係を有していたポンペイにおいて,小アジアの絵画要素が多いことは当然である。しかし,そのことを前提とするなら,ポンペイ第二様式は,単なる一文化現象として限定され,カンパニアの一都市における地方様式にしか過ぎなくなるのである。ポンペイの特殊性をることは当然であるか`,他方,唯一の豊かな絵画資料を伝える古代都市として,その壁画はヘレニズム・ローマ絵画全体の中で考察されるべきである。(7) 美術館をとりまく社会の基礎研究(美術館利用者の美術館に対する意識調査)研究代表者:北海道立近代美術館学芸部長武田共同研究者:奥岡茂雄(鈴木正賓(同学芸第二課長)研究報国内における美術館の建設状況は,この十数年間極めて盛んとなってきており,今日もなおそうした活況が続行されている。とりわけ公立美術館は,都道府県立から市町村立あるいは区立に至るまで,それらの設置者の自治体規模が拡散されているといえよう。しかし,こうした新美術館の誕生をむかえながら,美術館自体の建設後の運営については,必ずしも新時代を想定して再検討が進められている状況ではない。とくにコレクションや展覧会といった事業そのものにのみ関心が向けられ,最も重要な美術館の「利用」については,科学的な調査や研究がおろそかにされる傾向にあるように思える。うまでもな〈美術館の機能は,それを取りまく杜会の人々に対して向けられるも54-

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