い——むしろ漆分は殆どなく木粉そのものを揚き師ってペースト状にしたともみなさーに,このそれぞれに含まれる注目すべき作品(付属リスト参照)を,畿内及びその周辺地域から摘出し,前後9回にわたる現地調査並びに6月に当館で行なわれた’'密教美術展”での調査等において,その技法・様式的な特色を考究した。第二には,この数年米の私の課題である彫刻史の研究方法に関する問題についても,像の成立にまつわる様々な要因,背景といった側面から論点を突きつめ,具体的な作例とみなされる京都神護寺の薬師三尊像をめぐり,その試論的考察をまとめた。また第三には,神像彫刻の発生という平安前期彫刻の中では一つの特殊な問題ではあるが,重要な核となるべき課題に対し,本年度の調査を実施するなかで徐々にその位置づけを明確にしてきている。〇成果の概要第一の作品実査に基づく具体的な成果についてであるが,まず④乾漆併用木彫系の作例では乾漆使用の部位及びその材質的性質という点に焦点をしばって検討してみた。乾漆使用の部位については,9世紀中葉に潮ると思われる観心寺の2像の場合,天平時代以来の木心乾漆造の伝統を踏襲した像身の表面全体にわたる使用が認められ,かつ乾漆(=木屎漆)それ自体の性質についても,天平盛期以降一般化する漆分の少なれる一_ものを用いていることが明らかになった。この乾漆の性質については,国立文化財研究所の中里痔克氏と共同による研究を進めており,今後さらに多くのデータを収集することで,その材質自体の編年を意図している(中里寿克「漆芸技法一と漆地粉についてー」<『法隆寺献納宝物・伎楽面』昭和59年,東京国立博物館〉参照)。乾漆を部分的に使用している作例については今回4点の実査を行なっている。そのうち広隆寺吉祥天立像では,古代の木造建築の柱等にしばしば見出される`木屎彫り”の技法一乾漆(=木屎漆)を材の干割等に補埴する際,それが潤滑に行なわれるようにあらかじめその個所をV字形に削っておく方法_が明瞭に施されている点は注目に値する。また,乾漆の性質は観心寺像のそれと同様であり,9世紀に入ると乾漆が木彫造像の際の修正材料として安定した性質と役割を示すことも認めて良いだろう。これら部分的使用の像は,製作年代も9世紀後半から末葉に下った段階で,純木彫像との表現上の差違は全く失なわれてしまう(襟元のほんの一部の彫り過ぎに乾漆が盛りつけられる外全て木彫で造られた孝恩寺弥勤坐像は,その好例である)。⑤純木彫系の作例については,その個々の鮮やかな刀技の観察はもとより,-57-
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