鹿島美術研究 年報第1号
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3.保存修復技術の実験研究ペインティング)について,可能な限り時代地域ともに広範囲にわたって原作を調査することを目指して作業を進めている。具体的には,実体顕微鏡による観察と撮影記録,赤外線テレビによる観察,さらに可能である場合にはX線撮影などの非破壊検査である。現在までに観察記録を行った主要な作品の画家名は下記の通りである。イタリア:バルナ・ダ・シエナ,マンテーニャ,ティントレット。オランダ:レンプラント,フェルメール,ヤーコプ・ファン・ロイスダール。フランドル:パティニール,ルーベンス。イギリス:フュスリ。以上の作品については,いずれも実体顕微鏡による主要部分のマクロ撮影を数多く実施し,絵画技法材料について有益な知見を得ることができた。画家名の上に記した記号は下記の調査を実施したことを示す。⑱=実体顕微鏡による観察と撮影,〇=赤外線テレビによる観察と撮影,R線撮影。今後の課題としては,さらに多くの原作について同様の観察を行うことと,修復処置を行う作品について顔料サンプルの採取が可能な場合に,絵具層の顕微鏡サンプルを作成すること,及び顔料分析を行うこと等である。このような非破壊及び破壊検査の意義は,絵画作品の構造を正しく認識することによって,より適切な保存対策と修復処置を探究することにある。この実験研究は,いくつかの基本的な構造をもつ試料を作成して絵画材料技法の研究を行うことと,経年変化の観察を長期的に行うこと,及び人為的に損傷劣化を与えて修復処置を施し,修復材料技法の研究を行うことを目的としている。現在までに板を基底材とする試料10点の制作にとりかかり,作業が進行中である。麻布を基底材とする試料は,最も古い麻布油彩画の試料を作成すべく,特製の張枠を制作し,地塗り作業まで終った段階にある。⑬ ⑬ ⑱ ⑭CR翼⑮ ⑱ ⑱ ⑱ 66-

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