鹿島美術研究 年報第1号
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いが次のことを指摘しておきたいと思う。まず理解の点については,本研究の対象とした16世紀,ことにローマのルネッサンスの担い手であったヴァティカノ工房の人々,さらに具体的にいえばラファエルロとその配下の美術家たちは,前世紀と比較すれば格段の差をもって深い理解に達していたといえる。多分測量といったこともこのグループによってはじめられたと思われ,今日の考古学の成果と時として大差のない域にまで達している。また量的にも非常に多くの遺跡を調査している。評価の点についても,やはり16世紀の前記の集団は興味深い。同時代の建築への強い自信を持ち,決して古代の遺構であるからといって無条件に受け入れたりはしないのである。以下,いくつかの問題について現在までの成果を報告する。(セルリオの『建築第三書』について)はじめて美術家によってまとめられた古代遺跡図集である同書は殊に評価を知る上で貴重である。前述の特徴はここでも明らかで,同時代の作品傾向に従って,円形神殿を主とした集中式建築に強い執着を示している(2)。(主な図集の関係について)セルリオスを編み,本年刊行の予定である。(セルリオ著作の刊本カタログ)欧米の主要図書館100館程に照会し,刊本60数種の所をほぼ知り得た。17世紀まで,8ヵ国語に及ぶ同書の普及の様態をはじめて明確にできることになる。現在各種1部以上の複製フィルムを所蔵者から収集する作業もほぼ終了した。新発見の版種もいくつかあり,近く第2図の中間報告をまとめる(3)。(その他の問題点について)現在資料の収集が進みつつある状態である。カッセル手稿,またラファエルロ素描・絵画・ペルッツィの図集などに関してかなりの資料が集められたが,これらについての調査は59年度以降にならざるを得なかった。注(1)この他考古学の見地からは,当時の遺跡の状況をみ,今では失なわれた遺跡を知ることも重要だが,本研究の目的からははずれる。(2) 昨秋美学会全国大会で発表。本助成の成果を加筆して近刊予定。(3) 本年学会発表を予定。今後各版種の細かい調査をはじめ,海外図書館での実地調査に移る。カタログの完成までにはまだ数年を要する。と他の主要な図集とのコンコーダン-70-

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