イメージの創造契機を明らかにし,個々別々に鑑賞されやすいミケランジェロの作品を宇宙論としての大きな論理的枠組の中に位置づけたい。研究報告:本研究で得ることのできた新知見は,しメディチ礼拝堂≫制作中のミケランジェロが途中で「視線の集中」という革新的な構成原理を創造したために,初めから意図していた宇宙論的構想が破綻したに違いない,ということである。その構成原理はコペルニクス的宇宙論を形成することになるので,本研究では特にこの礼拝堂での当初の宇宙論的構成上の矛盾点を明確にし,しメディチ礼拝堂≫における未完成の意義を求めることにした。フィレンツェのサン・ロレンツォ教会にあるミケランジェロの作品しメディチ礼拝堂≫(新聖器室)の宇宙論的解釈は,F・ハート(I)を別にすると,ボリンスキー(2),トルナィ(3),パノフスキー(4)をはじめとして多くの研究者たちに広くうけいれられている。本研究ではその礼拝堂の中の渇聖母子≫(メディチのマドンナ)と二公爵像ぃロレンツォ≫及び¢ジュリアーノ≫そして二聖者像の視線の問題をとりあげて,システィーナ礼拝堂の』最後の審判≫(1534年着手)へと続く宇宙論の変遷に焦点を当てている。先ず簡単に』最後の審判≫の宇宙論的解釈を紹介する。トルナイ(5)はその壁画にコペルニクス的地動説のイメージの表現をみた。画面中央には太陽神アポロンの如き審判のキリストがなかでも巨大に描かれ,それを中心にして甦った聖人たちや死者たちが右まわりの流動的な円環構図のうちに無数に表現されている。ダンテの『神曲』天国篇第四歌にはプラトンの『ティマエウス』を典拠とする言葉「魂は死後星に帰る」という見方があり,それをトルナイは壁画解釈に応用して,甦る死者たちに惑星をみた。太陽を中心とする惑星の回転という近代的宇宙論のイメージがコペルニクスと同時に芸術において創造されていたという訳である。この壁画の手本は同芸術家の素描ぐファエトンの墜落≫で,そこにはゼウス,落下するファエトン,地面から天を仰ぐ姉妹と河神とが三層に描かれている。次に《メディチ礼拝堂≫の構成を簡単に述べる。現存する礼拝堂では入口側壁面に,遺聖母子≫,それを両脇から仰ぐメディチ家の守護聖人の二像がある。その壁面に向って右側壁面には神殿風建築の壁寵中に公爵像ぃロレンツォ≫がローマ風甲胄を着けて瞑想する。その下には壁面の前に置かれた石棺上に二体の寓意像《夜≫と叶昼≫とが横臥している。左側壁面には同様の構成で公爵像Cジュリアーノ≫とその下の石棺上に横臥した寓意像,¢夕≫-90
元のページ ../index.html#108