「メディチ家礼拝堂」におけるミケランジェロの宇宙論研究者:大阪府立大学総合科学部助教援中江前文は中間報告。60年9月帰国され今回最終報告として提出されたもの。研究報本研究の目的は,「メディチ家礼拝堂」の諸図像にこめられた宇宙論をサン・ミニアート・アル・モンテ教会にある太陽中心的イメージをもつ「審判のキリスト」の図像等と比較し,システィーナ礼拝堂のミケランジェロの作品「最後の審判」の太陽中心のイメージ(トルナイ説)との関連を見出すことにある。仮説として,ミケランジェ口が「メディチ家礼拝堂」制作中に審判図のイメージを導入することで,視線の集中効果という芸術上革新的構成法を創造し,ひいては太陽中心の近代的宇宙観への契機を見出したに違いないという点から研究に着手した。昭和59年10月からフィレンツェに赴き,当地の国立図書館及びドイツ美術研究所において研究資料を集めるとともに,シエナ,プラート,更にミュンヘン等を訪れて,「メディチ家礼拝堂」の宇宙論的解釈に関する新しい方向を見出すことに努めた。「メディチ家礼拝堂」の宇宙論的解釈はこれまでにポリンスキー,パノフスキー,トルナイ等によって主張され,多くの研究者たちによって受け継がれてきている。対立するのはF・ハートであり,懐疑的立場をとるのはワインバーガー,更に異教的文化の面よりもむしろキリスト教の礼拝の機能の面から解釈し直そうとするエットリンガがいる。宇宙論的解釈にしても諸研究者の間で解釈上の大きな違いが見出せるし,以上とは,異なった解釈も種々に掲示されている。そもそも「メディチ家礼拝堂」に関する諸研究者のそれぞれの解釈がかなり混乱気味であるのは,この礼拝堂内に設置された諸彫像の多くがアトリビュートをわずかしか持っていないことや,芸術家自身によって予定されていた彫像(例えば河神)が未完成であったりすることの他に,現存する礼拝堂内の構成理念が首尾一貫としてミケランジェロ自身のものであったのかについて十分に検討されなかったためでもある。その検討が始まったのはつい最近のことで,ダル・ポンジェットの報告書をはじめとして,エットリンガー,Z・ヴァズビンスキーの研究が注目に価する。ヴァズビンスキーは改めて礼拝堂における彫像の設置者を検討して,その設置の遅滞理由及び完成理由を当時の政状やアカデミア・デル・デイセーニョ設立と関連して研究し始めた。実際ミケランジェロ自身がどのような最終案をもっていたのかに関しての習作素描94 彬
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