鹿島美術研究 年報第2号
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(15) 池大雅の「真景図」に関する調査研究研究者:新潟大学教養部助教授武田光調査研究の目的:池大雅の山水画には,従来の概念的な山水画の空間構成とは異った,より新しい空間意識が認められるが,それは大雅が若年よりしばしば「真景図」を制作していることと深い関係があると考えられる。大雅は,旅と登山に於いて日本の風景に開眼し,真景図を描いたのであるが,まず大雅は何故かくも全国を旅し,また,その場所,景観を描いたのかを考察し(当時における名所名山概念に負っていることが予想される),次に実地調査として,大雅の風景との出会いを再確認して作品の成立事情を探る。そうすることによって,大雅の真景図がどれだけ伝統に根ざしているか,あるいはどれだけ伝統から脱却して,近代的風景画へと歩み進めているのかを解明し,大雅芸術の真の理解に近づこうと試みる。研究報告:池大雅の山水画の独自性は,「新しい空間の発見」(吉澤忠氏)にあるとされる。確かに大雅には,従来の概念的な山水画の空間構成とは異った,より新しい空間意識が認められるのであるが,それは大雅が,しばしば日本の実景を描いた「真景図」を制作していることと深い関係があると考えられる。従って大雅の「真景図」の問題は,個々の真景図が作品として芸術的に秀れているという本質に係ってくる重要な課題であると言うことが出来る。若年より大雅はしばしば旅に出掛け,また各地の山に登った。この旅と登山に於いて大雅は日本の風景に出会って真景図を描いたのであるが,そこで以下に問題点を理して掲げると,に関しては,(イ)中国の文人に深い憧憬の念を抱いていた大雅のことであるから,董其昌が謂う所の有名な「万巻の書を読み万里の道を行く」という文人画家の理想に従ったとする,(口)大雅の登攀した山の多くが霊山であり,その旅姿が白装束であった(三岳紀行の際)ことなどより,修験道信仰に関係あるとする,(1)何故かくも大雅は日本全国を旅して,また登山を試みたのであろうか。この問題-121-とどまらず,大雅芸術の

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