鹿島美術研究 年報第2号
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像画の位置—女性表現の普遍性と特異性ー一を明らかにする,の二点がこの共同研(16) 日本肖像画の問題ー15・6世紀の女性像をめぐって一(中間報告)研究代表者:群馬県立女子大学文学部講師佐野みどり共同研究者:埼玉大学非常勤講師調査研究の目的:戦国・桃山期の絵画を特徴づける現象の一つに,武将夫人像がある。これら(女性肖像画)の作例は決して少ないとは言えないにもかかわらず,従来ほとんど考察されなかった。もとより肖像画は日本絵画に於けるリアリズムを考える上で,非常に大きな問題を呈示するものである。加えて,戦国・桃山という時代は,中世から近世への変革に伴ない,絵画の動向が大きく揺れ動いた時代でもある。また,江戸中期以降のプロマイド的な美人図(浮世絵)を除くと,実在の女性を描いた肖像画は,ほぼこの時期にのみ出現している。よって武将夫人像の主題成立の解明や表現・技法上の問題の解明は,中世から近世への過渡期の日本絵画史を考察するのみならず,日本絵画の特質の一端を明らかにすることともなるだろう。併せてこの時期の大和絵派水墨画,町絵師,長谷川派,狩野派という流派と様式の問題を考察することもできよう。ひいては江戸期の狩野派様式という官学派絵画の流れに収束できなかった主題や技法及び絵画理念の展開の道筋を考察することも可能となるだろう。風俗表現への傾倒とリアリズムという江戸期の反アカデミズムの萌芽をここに見ることができるのであるから。研究報告:59年度の調査研究は,作品群の資料整理検討と未知の作品発掘を主要な作業として行われた。あらためて記すまでもなく,女性肖像画は,戦国・桃山期の武将夫人像が大半を占めているが,我々は,これら15• 6世紀の作品に必ずしもとらわれず,広く古代から中世に至る女性像作品(原則として単一像)全般を調査研究の対象とする基本姿勢をとることとした。これは,1)日本絵画史に於ける“肖像画の意味”を,女性肖像画出現と消失の歴史を裁り口に解明する,2)女性表現の系譜に占める女性肖究開始にあたっての主要な問題意識であったからである。その結果,共同研究の折返点である現時点では,数点の作品発掘を伴う女性像作品全般の資料収集とその体系的整理のおおかたを終了した段階である。調査の過程で,江戸期の女性追慕像が,想像以上に伝来していることが確認でき,今後も新資料・未知の作品の発掘が期待され,60年度も資料収集を続行する予定である。星野鈴-125

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