今大会のメインテーマは,芸術作品と哲学の変貌であり,他に下記の分科会テーマが掲げられた。大会は14日の夕刻,モントリオール大学講堂でのオープニング・パーティーでのマコーミック組織委員長の歓迎挨拶から始まった。も含めて数セッションの分科会に分れて研究発表及び討論が行われた。午前中のセッションは主として総会の形式をとり,メインテーマに基づいての現代の美学界を代表する長老格の研究者(オズボーン.ダント,デュフレンヌ,アルンハイム,マルゴリス,ェーコパレイソン等)が研究報告に現れた。午後はコーヒープレイクをはさんで,時には予定時刻をオーバーして7時過ぎまで研究発表と活発な質疑応答が交わされた。美学史研究の部門の研究発表は,バウムガルテン,カント,ヘーゲル,ニーチェらの美学史の根幹に触れる問題は勿論のこと,東欧圏の研究者からはマルクス主義との関連において,またアドルノ等の現代美学との歴史的コンテクストに至るまで,実に幅広いテーマが論じられた。また従来の常識化され,固定化してしまった美学史の解釈から離れて,美学成立以前のスピノザ,アウグスティヌス,プラトンの理論に新たな照明をあて,そこに美と芸術の根源に触れるより包括的な視野を持つ美学史を模索しようとする傾向が目についた。諸芸術理論に関する報告には,アメリカの現代美術の状況についての分析,またポスト・モダンの傾向についての言及が多くみられた。これに応ずるような形で行われたカナダの映像作家のアトリエの一連の実験的試みも興味深いものであった。今回はやはり,参加者の多数を占めた英米系美学者の発表が大会の主流を形づくつていた。それは芸術の美的価値を言及したディッキー(シカゴ大学教授)によって代表される分析美学の傾向である。分析美学は,ヴィトゲンシュタインの後期の言語哲学に方法論的基礎を有するが,その目指すところは,美学や芸術論あるいは批評における用語の曖昧性の指摘や推論の誤りの解明にある。これが批評の領域に適用された3 芸術理論4 芸術知識及び価値15日からは大会テーマの他に各国研究者の独自のプランによるワーク・ショップを1 美学史における転換点2 諸芸術及び批評-166-
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