鹿島美術研究 年報第2号
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2.ポール・ゲッティ財団について1940年代後半にカリフォルニア少卜1ロスアンゼルス西方のマリブに約20万坪の地所1981年5月にハロルド・ウイリアムス氏が,ポール・ゲッティ財団の理事長に3.ポール・ゲッティ保存科学研究所財団は,近年にわかに美術の分野で活発な動きをはじめている機関であるが,わが国ではその概要が不明なので,この機会にポール・ゲッティ財団について可能な限り情報を収集することも,今回の重要な調査事項に加え,1週間の招待を受けることにした。ポール・ゲッティ氏(JeanPaul GETTY, 1892-1976)は,アメリカの石油王で,当代のアメリカ大富豪の1人であり,その資産は約22億ドルと言われている。同氏は,1930年代からギリシャ・ローマの古美術品,ルネサンスとバロック絵画,フランスの18世紀装飾品に関心を寄せ,これら美術品の収集をはじめた。とスペイン風邸宅を取得し,収集した美術品をここに保存した。収蔵品を一般に公開するために1950年に教育財団を設立し,1954年からスペイン風邸宅に陳列してジーン・ポール・ゲッティ博物館を開館した。1960年代の半ばには,急増する美術品の収容が不可能となり,ゲッティ氏は,美術館を新設することにした。同氏は,紀元79年にイタリアのヴェスヴィオ火山の噴火で埋没したヘルクラーネウム市のローマ貴族の邸宅,パピリの館(villadei papiri)を復元して新美術館とすることに決定し,1974年1月に新美術館を開館した。その2年後1976年6月に同氏は84オの生涯を終えた。任命され,ジーン・ポール・ゲッティ美術館は,これまでの単なる美術館から国際的な視覚芸術施設(visualarts institution)として発足する準備をはじめた。ポール・ゲッティ財団の運営資金には,ゲッティ氏の遺産22億ドルの市価の4.25%,約1億ドルをこれに充当するという米国法が制定され,1982年4月に同財団はこれを受領した。1982年5月には,同財団の理事会が,これまでの美術館事業の育成に加えて,新たに5つの事業の推進を発表した。すなわち,(l)美術史・人文科学センター,(2)美術史情報事業,(3)出版事業,(4)保存科学研究所,(5)美術教育センターの5事業である。ポール・ゲッティ保存科学研究所は,ミュンヘンのドナー研究所からフランク・プロイサー博士を部長として招聘し,彼の指導の下に研究計画が進められている。178-

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