鹿島美術研究 年報第2号
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(1) 博物館学芸員,保存科学者及び修復技術者が一堂に会して検討した結果,初の長期的研究課題は「各種塗膜(coatings)」とすることになった。塗膜(漆,合成樹脂等)は,美術品の保存に各方面で重要な課題であるので,特定の問題に限定せず,学術的研究と応用研究の両面から実施する。(2) 美術品の保存科学に関する高度な研究会の開催を企画実行する。すなわち,主題に関して,美術史,修復技術,保存科学の各分野の第1級の専門家を世界から召集し,ゲッティの施設または米国内外の博物館等に長期間滞在して,特別セミナー,講習会,コロキウム等を開催し,美術品の保存科学原理と実際について高度の研修を行う。重要な位置を占めている。当初IIC Abstractと承していたAATAは,各種の補助金を受けながら継続的に出版してきたが,1983年からポール・ゲッティ保存科学研究所か‘,AATAの編集及び出版に要する費用を負担することになり,エア大学に置かれているが,1985年にはロサンゼルスのポール・ゲッティ保存科学研究所に移転し,すべての情報をコンピュータ化して普及させる方針である。は,世界各国の同種の研究機関が施設はあるが資金不足に悩まされているなかで,現在の施設は不十分ながら潤沢な資金を背景に最高の学識経験者で構成する国際的な諮問委員会を設置し,現時点で理想的ともいえる総合的な視覚芸術の研究事業を推進しようとしているポール・ゲッティ財団の今後の動きは,注目に値するものと考える。また,保存科学の分野で生物研究室を設置している機関は,世界で5指に満たないが,ポール・ゲッティ保存科学研究所が専門の生物学者を配置して文化財の生物劣化の研究を開始しようとしているのを知って,何とも複雑な心境であった。さらに,フランス等ヨーロッパ各国でも文化財の生物劣化の研究室開設の動きがあり,本年9月のICOMの会議で生物劣化の委員会が発足するという情報を得る(3) 美術品の保存科学に関する情報の収集と普及を行う。Artand Archaeology Technical Abstracts (AATA)は,保存科学分野の文献抄録として国際的にAATAの継続的出版が保証されたのである。AATAの事務局は,現在デラウ的IICはInternationalInstitution for Conservation of Historic and Artis-tic Worksの略.-179-

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