鹿島美術研究 年報第2号
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4.文化財の生物劣化に関する調査研究1)第6回国際生物劣化シンポジウム第6回のシンポジウムには,19ヶ国から200名が参加して開催された。すなわことができた。このような世界の情勢を見ると,わが国の文化財保存科学が,逸早く生物研究室を設置して研究を進めてきた先見の明に敬意を表し,かつ筆者らの生物研究室の研究方針に誤りのないことを確信した次第である。ントン特別市のジョージ・ワシントン大学で開催された。本シンポジウムは,あらゆる物質の生物による劣化とその防除に関する研究発表の場である。12の分科会のなかに,博物館・美術館・古文書館・図書館における生物劣化(以後「博物館等における生物劣化」と略記する)の分科会があり,これが文化財の生物劣化について生物学者が参加する世界で唯一の研究会と言って過言でない。ち,米国の95名とイギリスの25名を筆頭に,日本6名,カナダ4名,西ドイツ3名,スエーデン3名,その他ハンガリー,デンマーク,メキシコ,イスラエル,イラン,インド,インドネシア,ノルウエー,ベルギー,スコットランド,フィリピン,アルゼンチン,クエート,イタリア等から総計200名が参加した。博物館等における生物劣化の分科会には,インド,米国,カナダ,イギリス,イタリア及び日本から12の報告が提出され,活発な討論が行われた。燻蒸剤を含む防虫・防微剤の材質への影糊が議論の対象となったのがとくに印象に残った。しかしながら,燻蒸剤の材質への影騨は,各演者が自分で実験した結果に基づいて発表しているわけではなく,ある特定の情報に基づいていることが判明した。この点に関しては,わが国の文化財の生物劣化防除が,筆者らの実験に基づいて文化財の燻蒸処理標準仕様書を作成しているので,一日の長があった。筆者は,博物館等における生物劣化の分科会で,「未発掘古墳の微生物制御因子」について研究発表をした。すなわち,わが国では全国的に発掘が行われているが,古墳等の発掘後の保存方法が未だ模索の状況にある。筆者らは,発掘直後の古墳石室の壁画面には,微生物等の繁殖が認められないが,一度発掘された古墳の石室等には,各種の劣化現象と共に壁画面に微生物が繁殖し,劣化を促進するという事実に着目した。この事実から,未発掘古墳には何らかの微第6回国際生物劣化シンポジウムは,昭和59年8月5日から10日まで,ワシ-180-

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