会議の経過及び研究成果:国立西洋美術館において昭和59年度特別展「ドイツ美術展,中世から近世へ」開催を機に美術史学会(代表者,前川誠郎)は美術史家に一般史(経済史・文化史)家を加え,「工芸か芸術家か」の基本テーマの下に,日独双方の研究者による15,16世紀の日本とドイツの美術並びにその社会的,文化的環境をめぐるシンポジウムを行いたいとの東京ドイツ文化センターの提案を受諾し,数回に亘って協議を重ね,発表者の人選を進めるとともに,相互乗入れ制とも言うべき方式,即ち単に自国の美術や芸術家のみならず,互いに対手国のそれらについても考察を行って本シンポジウムに特色を持たせることを決定した。日独各4名,計8名の報告中,日本側からは前川誠郎が「雪舟とデューラー」,またドイツ側からはロージャ・ゲッパーが「日本の中世社会における芸術家」と題しそれぞれ基調報告を行った。そしてこれに日本の絵画と彫刻に関し辻惟雄,田辺三郎助が,またドイツの工芸と工房についてフォン・ヴィルケンス及びプラーヒェルトが具体的な史実や作品に即した報告をもって内容を深め,特にブラーヒェルトの報告に際しては本人が早くに帰国して当日出席でになかったことからニュルンベルク,ドイツ民族博物館員のギュンター・ブロイティガムが若干の訂正を加えてこれを補った。一般史に関してはシンポジウムの冒頭にカール・ボーズルと網野善彦とが中世末・近世初期における各自国の市民社会とその文化について詳細かつ示唆に富む講演をもって芸術活動を支える基盤への洞察を行ったことは今回のシンポジウムの大きな特色をなすものである。美術史学会及び歴史学関係有志(代表者,成瀬治東大教授)は会員に対しシンポジウム開催の通知を行い,参加希望者の総数は250名を越え,また三日間の会期を通じて常に100名以上の聴講者があった。国際シンポジウムにおいては国語を異にする参加者全員の意志の疏通が何にもまして肝要である。そのため美術史学会は東京ドイツ文化センターの全面的協力のもとに報告原稿の日独語訳と同時通訳システムの万全なる準備に当り,所期以上の好結果を挙げ得たことは喜びに耐えない次第である。また報告後の質疑応答と最終日午後のディスカッションには,特に東京ドイツ文化センターの所長秘書高階昌子氏を煩わせて討論に遺漏なきを期し,参加者全員の好評を得た。本シンポジウムは昨昭和58年度の国際アジア・北アフリカ人文科学会議を別とすれば美術史学会が試みた最初の国際シンポジウムであり,また対手国もドイツ1国に限-185-
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