鹿島美術研究 年報第2号
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い〉の習作ですが,これと前の作品の違いにご注目下さい。次はロダンが踊子達の特徴をくべき的確さで捉えた好例をお見せいたします。これらの作品でロダンは重く豪華な踊子の衣裳を表現しようという気は更々ありませんでした。彼が興味を持ったのは,絹の軽さと,微妙な色彩だったのです。ですから彼はこれらを水彩の軽さで描きあげました。これは鮮やかで平坦に塗られた色彩の例です。これはグワッシュで制作されました。非常にはっきりした青,そして厚く平坦な色面にご注目下さい。これもまた動きを捉えるロダンの才能を示した非常に良い例です。外側と手足に色を塗っていて衣裳の部分が塗り残されていますが,これが光の効果を伝えている事にご注目いただきたいと思います。ここには五つの動きを表わす素描があります。画面の区切り方の自在さ,そして筆の早さにご注目下さい。これはロダンが日本の版画の線描から学んだ教訓です。これもまだ中心を外した構図の例ですが,このように日本の版画にはしばしば画面の中央に向って登場する途中の人物が描かれております。最後に日本についてお話しいたします。エジプト,ギリシャ,ローマなど作品を除けば,ロダンの個人コレクションの中で最も数多く種類が豊富なのは日本からの作品です。実際に様々な分野があります。先ず第1に版画や画帳の類からお話ししましょう。先ずこの絵は彼が経済的余裕が出てから初めて購入した最初の絵画で,ゴッホの《タンギー親爺》の肖像ですがこれが彼が最初の購入作品であった事は非常に重要です。背景は有名な浮世絵で埋めつくされています。ロダンは当時浮世絵の作者達を知りませんでしたが,毎日これを眺めている内に次第にその様式に感化されていきました。浮世絵,版画の世界は豊かにして入り組んでいますが,ロダンはその中でも著名な作家のものを集めています。以下彼が集めた有名作家の作品をお見せします。先ず勝川春章作といわれる絵本からの一枚,これは上に和歌が描かれており下に芸者が表わされています。次は春信の造花作りです。これは恐らく上に狂歌が描かれているのだと思いますが,1907年に萩原守衛から貰ったものだと思われます。次の作品は歌川豊国の〈役者絵》。次も歌川豊国の《二人の役者》。その次は北斉の短冊ですが漁師が表わされております。これは北斉の作品,しばしばあるように印も落款もございません。この作品も北斉の百姓を表わした短冊です。次の作品は広重の〈ポラと椿と生姜》だと思います。次の作品これは広重の東海道五十三次のうちの〈草津の宿》です。次も広重の〈東都名所吉原雪の朝》。最後に英泉の〈芸者と三味線持ち》。これは淫斉という落款があります。このように豊かな数百にものぼる収集に加えて版下絵も彼のコレクションに多く含まれ-17-

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