鹿島美術研究 年報第2号
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ております。版下絵とは墨で画いた版画の下絵のことです。次にこれは床屋のシーンですが日常生活の情景を極めて簡潔に且つ要領を得た表現で表わしております。ロダンはまた絵本を多く購入したり,贈り物として貰ったりしていますが,例えば北斉の絵本の一つとして描かれた〈一筆画譜》の中からの一頁。次は優れた絵師で書家でもありました上田公長の略画です。これは先程,たまたま知った事ですが日本に余り数のない本であると人に教わりました。次は型刷の型です。これは極めてデリケートな技術を示すものとしてロダンの関心をきました。梅の花の紋様に幾何学的模様がつけられております。ロダンはこれを50点程持っておりました。次に根付けと置物です。ロダンのコレクションには根付けと置物が40点程あります。これらは完璧な彫刻の技術を持っていたロダンが非常にその芸術的側面と,そしてまた実用的側面を評価したもので,そしてこれほど小さなサイズに次々彫られた質の高さを高く評価しました。これは象牙の根付けで鍾旭が邪鬼を征伐して袋の中に閉じ込めている所です。次の置物は猿廻しで,これは根付けのテーマにも良くあるものだと思います。そのほかの工芸品といたしましてこれは達磨・京都の焼物です。これは丁度ロダンが〈バルザック》の制作の後で,非常に重々しいシルエットと,それからたっぷりした衣裳を思わせるので友人のイギリスの彫刻家が半ば冗談にロダンに送ったものだといわれております。次は面です。これは着色されています。ロダンはその恐ろし気な表情に魅惑され,1910年に購入いたしました。裏側は極めて大ざっぱに作られ,眼は穴が明いておりません。つまりこれは特にヨーロッパ向けに作られた,ヨーロッパで売るために日本で作られた装飾用の品物です。次に置物の人形があります。これはブロンズと七宝で作られており,質としてはさほど上等のものではありませんが,ロダンはこの種の人形を19世紀末にヨーロッパ各地で沢山買っております。ロダンは作品の収集だけでは満たされることはありませんでした。彼には死ぬまで作り続ける事が必要だったのです。そして彼の日本人のモデル花子はそれまでになかった豊かで,多様な肖像彫刻の源泉となったのです。石膏,テラコッタ,ブロンズ,練りガラスなど53もの異なったタイプの作品がロダン美術館の収蔵庫にしまわれています。花子と出会う前にロダンは,女優貞奴の表現力に大層深い印象を与えられています。貞奴の公演は1900年の万国博覧会で大成功を収め,ヨーロッパの最も有名な女優達サラ・ベルナールやラデュースなどと比べられる程でした。しかし貞奴がロダンの為にポーズしたかどうかは全く-18-

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