鹿島美術研究 年報第2号
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不安は両目の間に眉毛を寄せた跛の表情で強調されています。次は〈顔のタイプG》です。これはまた別のヴァリアントで前とは少し違いますが,これもまた緊張の表情を表わしています。次の作品は《マスクのタイプB》これは表情を和らげるはずの髪を排除し顔の面だけ際だたせることによって,前にお見せした顔の作品と対照的に,極度の精神集中をわしております。次は〈マスクのタイプC》これは更に苦悩の表現が特徴的です。そして彫刻の表面はロダンが指で練った跡があり,小さい土くれの凸凹の跡が残っています。そしてロダンの指紋さえ見ることが出来ます。その次の作品は同じ主題の大きなものでロダンは花子の顔にあらゆるエネルギーとそして力を見出しました。そして作曲家ベートーベンの天才を表わす象徴的作品にこの彫刻を利用しようとしました。次は《空想に耽るマスク》です。これはテラコッタの作品で,静かで隠やかなこの美しい顔は,花子が寛いでいる表情です。ブロンズの作品もあります。次はそのプロンズのマスクですが,これはに人気が出たので1911年に国がロダンから購入した一点です。これと同じヴァージョンが西洋美術館にもあります。花子はロダンのお陰で有名になり,日本の文豪森鵡外が彼等の出会いを小説にした程です。花子は岐阜に隠居し1945年(昭和20年)の空襲で家が焼ける直前に妹のもとで亡くなりました。以上,極く手短かに日本がロダンに及ぼした魅力の実例を挙げて見ました。またもう一つの側面にも触れなければならないと思います。即ち,今度は「日本とロダン」と云う点です。皆さんのお国は,ロダンに対し讃美と変らぬ愛を持って下さっています。そしてその友情の証しは極めて数多く見られます。例えばロダンの周辺に多くの若い彫刻家達が集りました。その中で萩原守衛はロダンから極めて大きな芸術上の影騨を受けました。萩原の〈若い娘》はロダンの〈キュベレ》と非常に類似しています。次はロダンの《ヴィーナスの化粧》は萩原の《若い娘》と非常に良く似ており,それは形それから感能性・魅力などの点においてロダンと萩原の共通点を表わしております。またムードンに日本の代表団が表敬訪問した際にロダンもこれら訪問者に敬意を表わす為に彫刻台をばらとけしとカーネーションで飾りました。また文芸雑誌『白樺』の役割も述べて置く必要がありましょう。これは『白樺』の表紙の一つです。この雑誌は1910年明ンの送った3点のプロンズ作品を所蔵しております。これらの作品は,東京における彼の治43年ロダンの70歳の誕生日を祝って特集号を出しました。倉敷にある大原美術館はロダ....... -20-

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