2.京派絵画の調査研究1.鎌倉時代絵画における風景表現の研究東京国立博物館研究員千野香織今回の報告の目的は,鎌倉時代の絵画史全体を見通すための,一つの解釈の切り口を呈示することである。特に風景表現を選んだ理由は,それが,作品のジャンルを問わず多くの画面に共通して描かれる。いわば同類項と認められるからである。多様な風景表現の中から,今回は,特色ある二つの山の描法について述べる。その第ーは,輪郭線と平行状の線を内側に重ねて山をわすという描法であり,第二は,輪郭線の内側をさまざまな色の樹木の型で埋め尽くすという描法である。これらはいずれも,本来その描法が対応していたはずの現実の景観から離脱し,ある方向性をもって整えられた結果,完成された描法であると考えることができる。その方向とは,端的にいえば,「平面化」であり,「装飾化」である。即ちこうした言葉によって,鎌倉時代の絵画作品に共通して見出される特質の一つの側面を,より積極的に解釈したいと思うのである。京都大学文学部助教授佐々木丞平江戸時代はさまざまな作風の流れがそれぞれに特色をはっきりと示し,それまでの伝統的な絵画の流れが明確に分立しつつ完成の域に達した時代であった。そうした中で,京派(円山四条派)の祖応挙は,伝統を継承しつつ装飾性や内的世界の表現をんじた他の流派となり,自然をあくまでも手がかりとして,できる限りありのままを写しとろうとする態度を示した初めての画家であったといえる。第1回研究報告会報告要旨-24_
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