鹿島美術研究 年報第2号
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4. 13世紀イタリア壁画の研究60kmにあるサンタ・マリア・イン・ヴェスコとである。しかし直接影響を与えたにちがいない作品が現存しないため,それはほとんど実証不可能なことである。発表者はヴェネツィアのジョルジョ・チーニ財団主催第25回国際『ヴェネツィアと東洋』に派遣研究者として出席し,またスカラ家治下のヴェロ14世紀美術に関する『カングランデ公の織物』展のために展覧会評を執筆したの会に,マルコ・ポーロ時代以後の西洋と東洋の芸術的交流について若干考えてみた。従って今回は,特に相互の影閻が何を経路に行なわれたかに焦点を当てながら,西の芸術交流に関する現在の研究状況の一端を披露したい。ーサンタ・マリア・イン・ヴェスコヴィオ聖堂の壁画一東京芸術大学美術学部教授辻この発表は,昭和58年夏に現地イタリアで行った調査の成果にもとづくものである。調査の対象に選ばれたのは,ローマ北方約ヴィオ聖堂の壁画である。この作品が選ばれた理由は,これまで調査を続行してきたアッシージのサン・フランチェスコ聖堂の壁画,とくに上堂の新作,旧作両伝を,この聖堂の同主題の作品と比較するためである。また,同聖堂には,『最後の晩餐』図もあって,これはローマのサンタ・チェチリア聖堂のカヴァリーニの壁画と比較されるべきものである。出来映えの点では,アッシージとローマのいずれも傑作として名高い両作品には比すべくもないとはいえ,そこに著しい類似点と,同時に相違点とが共存していて,美術史上の『影響』関係について興味ある一事例を提供してくれている。この事例を介して,制作に当って画家のイメージと技術は,他の作品にいかに関わるのかを論じたい。茂-26

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