今日にのこされたローマ期の遺品を系統的に調査し,古代の文献の助けを借りながらギリシャ・ヘレニズム期のアフロディテ像を復元し,その魅力を探り,様式の変遷をたどり,復元されたヘレニズム期のアフロディテ像の制作年代を調査し,同ーテーマにおける様式の展開を把握することによって,今日なお定説をもたないヘレニズム期彫刻史の研究に一つの指針を与えたい。13.近世西洋版画と初期洋風画の関係について研究者:山梨県立美術館学芸員井出洋一郎概要初期洋風画,特に従来世俗画とされて来た,西洋風俗画,戦闘図,王候図などの表わす思想内容とその成立の事情を明らかにしたい。初期洋風画にはキリシタンの宗教画が含まれるが,いずれも我国と大航海時代の西欧諸国との初めての接触によって生まれた絵画であり,その研究の意義は日欧相互の文化,伝統の差異,影特を視覚的な具体例として眺められる点にある。そして日本人による異文化受容史における問題の解明にかかわると考えられる。キリシタン絵画においては,日本人のキリスト教,つまり外来思想に対する態度の原点を探ることができ,世俗画においては,日本人の意匠と西洋のそれとの間にある美的感覚の相違を明らかにできよう。このように初期洋風画の研究は日本人の精神文化の特殊性と普遍性を検討する上で重要であり,特に制作にあたり原図となった版画を探索することは,遺品の表わす文化的背景や,思想内容を解釈する上で不可欠な課題である。14.北宋末,南宋初期山水画の調査研究一故宮博物院の調査を中心に一研究者:京都大学大学院博士課程河野道房概要中国の山水画は宋代にそのピークを迎えるが,技術的にも芸術的質においても高い水準を保った時代でありながら,宋代の絵画には未だ解明されない部分が多い。特に北宋の山水様式が崩壊し,南宋の灌洒な院体山水への転換するという,史上稀にみる様式の激変期があり,その趨勢を整理し,分析検討することは,宋代絵画全般を理解するためには必ず把握されねばならないことである。-36
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