鹿島美術研究 年報第2号
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(1) フランス,ロココ絵画の研究研究者:神戸大学文学部教授池上忠治調査研究の目的:従来,日本におけるフランス美術研究は,近代及びそれ以降もしくは中世に集中しており,ロココ絵画を含む18世紀美術は等閑視されてきたきらいがある。この分野については,なお信頼できる日本語文献も少ない。この分野についての充分かつ詳細な知識・新知見などを体系づけて把握しなおすことが本研究の目的である。研究報告:この10年ほどの欧米では,18世紀フランス絵画研究の分野でもことにめざましい進展がみられる。1972年にブルックナーの『グルーズ』が出版され,その5年後にはデイジョンで興味深いグルーズ展が開かれた。同じこの年に,ニースその他ではカルル・ヴァン・ロー展が開催されている。いずれも生前に盛名をほしいままにしながら後に流行や趣味の変化によって等閑視ないしは軽視されてきた画家たちで,現今の審美眼による“復権”は重要視するにあたいしよう。また米国では1976年にシカゴで「18世紀フランス絵画選抜展」が行われ,絵画彫刻のみならず工芸にまでわたって作品と知識との再整理が行われた。同年に米国及びカナダを巡回した「ルイ15世の世紀展」も同王の長い治世におけるロココ絵画の展開を要領よく展示するものであった。ファルコネ研究とウードン研究が新しい研究書の形をとったことも忘れるわけにはいかない。以上はたまたま私が目にした著書や展覧会カタログの重要なものをあげたにすぎないが,さらにはブーシェの作品の総カタログの刊行もあり,日本でのブーシェ展やフラゴナール展の開催といったことも考えあわせれば,ロココ美術の研究が近年いかに充実しつつあるかが明らかとなるであろう。ところで,本研究は18世紀フランスの美術,わけてもロココ絵画を対象としている。神戸大学では従来より故小林太市郎教授の蔵書約3,000冊(いわゆる小林文庫。その9割までがフランス美術にかかわる)を収納しており,今日では入手しがたい多くの図書がある。だが,いかに小林文庫が貴重であるとはいえ,その大多数は1930年代以前に出版されたものであり,重要な欠落なしとはいえない。今般鹿島美術財団の援助に1.美術に関する調査研究の助成-53

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