鹿島美術研究 年報第2号
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よりディミエの『18世紀の画家たち』2巻やウィルデンスティンの『アヴェ』,ラポーズの『M,-Q,ド・ラ・トゥールのパステル画』など上述の欠落を埋める諸図書を購入できたのは大いに有難いことである。さらに最近,パリではシャルダン展が開催され,次いでウードリー展も開かれた。いずれ劣らぬ18世紀フランス静物画の名手で,両展のカタログは細部にわたってな新資料を網羅している。これらの展観が共に米佛両国の専門家たちの協同作業によることも付記しておく必要があるだろう。以上のような充実した研究ぶりは,今日なお続いている。つまり1984年秋にパリでほとんど並行して開催された「ヴァトー展」及び「ディドロとサロン展」が,この継続ぶり進歩ぶりをもののみごとに語っている。前者が米佛独三ヶ国の協力のたまものだとすれば,後者はフランス人たちによるさまざまな角度からのディドロ研究の成果であり,この啓蒙主義哲学者が何年もにおよぶサロン評で取りあげた注目すべき作品群が彼の文章の抜粋と共に並んでいるのを次々と目にしてゆくのはこの上ない楽しみであった。またディドロのサロン評の自筆原稿の若干を会場で見ることができたのも,私としては得がたい経験であったと言わざるをえない。再びヴァトー展に話をもどせば,これは可能なかぎり最大多数の作品を油絵であれサンギーヌその他のデッサンであれ集めて,カタログには最新の研究成果を盛り,その上で真偽の疑わしいものについては判定を観察及び後世の人々の判断にゆだねようとしたものである。私としては,ワシントン,ベルリン,マドリッド等で以前に見たものを再びゆっくりと目にすることができたこと,また<シテール島への船出>2点が初めて同じ壁面に並んだのを見て入念に比較検討することができたことなどを,直に喜びたい。なお指摘すべき問題点は多々あるのだが,ここでは後日にゆずらざるをえない。こうしてロココ絵画の研究は今日ようやく全面的に面目を一新しようとしている。上記のごとき各種の著書や展観をふまえてさらに新たな研究の進展を計るのは,欧米の研究者はもとより,私たち日本の研究者にとっても今後に課せられた問題であるとわなければなるまい。54-

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