ス周辺の作品が所蔵品として根付いてきたことをうかがわせる。日本の美術館においても,当然ホルツィウスが館蔵品収集のターゲットとなってもよいはずである。しかし,それはホルツィウスの美術史的評価が日本において十分に認められるまでは,簡単にはゆかない。もっとも評価が定まってしまうと,今度は値段が高くて手が出ないということにもなる。福井県立美術館では,こうした中で年度の購入予算の五十〜百分の一をさいて,二ヵ年の間この時期の版画を集めた。本来ならばしかるべき画商を通じて筋のいい作品を集めるのが本道なのであろうが,ここではサザビーのカタログ販売に頼った安物買いの典型ともいえるやり方で,「一山のうち何点かまともなものがあれば,」というような具合であった。しかし,それだけに作品収集の醍醐味というものがあって,本来版画の収集とは清濁あわせて一呑みにしてしまうようなところで成立しているものではないかという実感も伴った。一山で買うとカタログに作家名も作品名も記載されないものが混ざっており,もちろん額装などはされていない。それゆえに表裏ひっくり返し,透かして見たり,白紙の状態から調査はスタートする。そしてその調査には膨大な資料の必要が痛感され,版画集を中心にした図書の完備か不可欠であることを思い知る。さらにそれぞれの一点が持っている内容の豊かさは,それが単に美的鑑照の目的だけでなく,あるメッセージを伝えるものであることによって,難解さを一方で生み出すものの,他方で西洋の精神に触れる直接の媒体ともなるのである。このように,本研究では私が手にした50点たらずの版画を分類し美術史的に位置づけることを目的として,一方でできる限りの文献資料を集めてその概要を知り,他方でできる限り多くのオリジナル作品に触れることが計画されたが,後者についてはいまだ果たされていない。以下文献調査によってわかったことを,福井県立美術館所蔵の諸作品について概観しておく。ソンとデリラ>(Hollstein 25)とくイヴの誕生>(H. 1)がある。前者は製作年については確定的ではないが,1507年前後のルーカスの早熟ぶりを示すもので,サムソンの扁平な顔つきは非常に早い時期に特徴的に見られるルーカスの個性である。透かしについては,極めて細かな部分の違いが基準となるが,サムソンの楯をふちどる幾つ16世紀初頭の作品についてはルーカス・ファン・レイデン(1494■1533)の<サムwatermarkは何種類かあるが,ここでは王冠と楯をあしらったものであり,ステート_57-
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