鹿島美術研究 年報第2号
82/220

テーマを巡って,新古典主義美術の特性を探り,それへのロマン派的要素の侵入及びフランス19世紀のアカデミズム美術における古典主義的美術観の変遷を辿る試みはフランス近代美術の本質を究めるために意義深い。研究報告:フランスの新古典主義美術とロマン主義美術は,形式的・視覚的な面においては,ヴェルフリンの主張した古典主義美術とバロック美術の対照に対応する顕著な対立的性格を示しているため,従来の美術史学においてはともすれば互いに相容れぬ二潮流と考えられがちであった。だが近年の研究者たちはこの二つの様式の主として非形式的側面に多くの本質的共通点を見出すようになった。すなわち新古典主義はその古典古代への憧憬によって「過去への耽溺」を行なったロマン主義の一変種であるともいえるし,また王政復古期にロマン主義が台頭してのちも新古典主義美術はアカデミズム陣営を中心に存続したともいうことができ,この二様式の相互浸透は美術史のさまざまな局面において指摘することが可能である。以上のような研究史的状況において個々の研究者にとって現在最も必要とされることは,新古典主義とロマン主義という一つの動向を漠然と全般的に論ずることではなく,可能な限り具体的な論点に着目して美術作品や美術史的現象の実体に即した分析を行ない,かつその分析の結果を各自が作業仮説として当然念頭においていると思われる新古典主義ないしロマン主義の規準に照らし,必要ならばその仮説自体を修正しつつ最終的には自他に対する説得力にんだ見取り図を作成することであろうかと考えられる。以上のような問題意識から出発し,フランス新古典主義美術とロマン主義美術の関係の再検討の手段となる具体的課題としてーナポレオン関係美術ーというテーマを設定し,鹿島美術財団の助成を受けたものであるか,その一応の研究経過を記しておきたい。結論から述べると,ナポレオン関係美術というテーマは,予想通りに,フランス新古典主義美術とロマン主義美術との関係を探究する上で極めて有効なものであることが明らかになった。すなわち,フランス近代美術史において,ナポレオンと美術との関係は新古典主義的美術現象とロマン主義的美術現象との一つの結節点を形づくっているということができるのである。まずその誕生にナポレオンが具体的に関わっていた諸美術の圧倒的多数のものは,一般に新古典主義的なものの最大公約数とされる質を備えていたといえるであろう。第一執政官時代のナポレオンは,<サン・ベルナー-64-

元のページ  ../index.html#82

このブックを見る