ゆう風>(畠山記念館蔵)と,行年八十二歳の<滋湘八景図屏風>は,準基準作品である。このように,雪村画には,極めて基準作品が少ないので,作品の編年を考えることは,容易でない。加えて,雪村に関する当時の文献史料がほとんど伝わっておらず,伝記がよく分っていないことも,それを困難にさせている原因である。そういうなかで,故福井利吉郎教授は,昭和8年に『雪村新論』という論文を発表され,雪村をすぐれた個性的画家として世にだされた。しかし,画期的な雪村論であるが,氏のいう「再現法」は問題のある画論『説門弟資』を論拠にしているため,その雪村像は文学の域をでていないように思われる。しかし,添付資料として提示された『雪村略年表』と『年代別遺作目録』は未定稿ではあるが,雪村研究として意義がある。現在の研究からすれば,の重要な示唆を含んでいる。そこで,この福井氏の年表と目録を参考に先の基準資料を手がかりにして,雪村画の編年を組立てて見たいと思う。その方法としては,常識的ではあるが,各々の作品の様式を分析することによって,おおよその前後関係や,前期,中期,後期の大きな区別を想定することである。まず,天文19年の「以天宗清像」を基準にして,それよりも前の作か,後の作かを考えることは,最初の最も大事な作業である。そして,彼が活躍の舞台とした東国の常陸,鎌倉,小田原,奥J小lの黒川(会津若松),三春の地域を考慮にいれて,先の三つの時期をより細かな時期に分ける。そして様式の共通する作品に分類し,それぞれの時期に当てはめていくのである。このとき,最も有力な鍵になるのは,雪村が使った印章であると,考えている。(別紙「印章と活躍期」を参照)雪村がいろいろな種類の印章を使用しているが,雪村の基準となる印章は,いまのところ,次にあげる18種類であると,考えている。つまり,①朱文鼎印「雪村」,②朱文方印「雪村」,③白文瓢印「周継」,④朱文水差印「雪村」,⑤朱文円印「周継」,⑥白文方印「雪村」,⑦白文方印「雪村」,⑧朱文重郭方印「周継」,⑨朱文壺印「雪村」,⑩朱文鼎印「雪村」,⑪白文方印「周継」,⑫白文方印「浮」,⑬白文楕円印「雪」,⑭朱文由印「雪村」,⑮白文方印「鶴船」,⑯朱文長壺印「周継」,⑰朱文長壺印「周継」,⑱朱文由印「雪村」である。このほかに,村の印章とされるものが二,三種あるが,押された作品に問題があり,ここでは除外した。雪村は,④の水差印,⑭⑱の由印,⑯⑰の壺印のような,珍しい異形の印章を好んで用いている。印文の構成も,策刻の正統から外れ,我流であり,恐らく自刻にし,新事実を追加する筒所が少なくないが,こんにちもなお,多く-70-
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