鹿島美術研究 年報第2号
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な細筆の「雪村筆」の落款があり,⑨朱文壺印「雪村」,⑧朱文重郭方印「雪村」,⑦白文方印「雪村」の三つの印章が押されている。この画に押された三つの印章は,村の「小田原(箱根湯本)時代」(第三期)の基準となるものである。また,天文26年押されており,この印章は,鎌倉円覚寺にいたころに,用いられたことが分かる。とすると,「小田原・鎌倉時代」には,これら三種の印章が使用されていたと,考えられる。この時期の作品は,豊かな墨法を駆使した躍動感にみちた画風に特徴があり,その代表作が,京都国立博物館の「琴高群仙図」三幅対である。これより以後,雪村は再度黒川に活躍場所を移したと推定される(中期)。そして晩年は三春に隠棲する。ところで,「以天宗清」の三つの印章よりも以前に用いた印章としては,一つに,「雪」と「村」の文字が分離している⑥白文方印「雪村」が考えられる。これは印章⑦と同形であるが,別種の印章である。この印章を押す作品には,ほかの印章は用いられていない。常に,単独で使われている。この⑥の印章が押された作品には,<風涛図>(野村美術館蔵),<夏冬山水図双幅>(京都国立博物館蔵),<出山釈迦,梅,竹図ニ幅対>(藤田美術館蔵)<馬図>,<大根茄子川魚図>,<唐子図>がある。<風涛図>とく夏冬山水図>は,いわゆる真体(楷体)の山水図で,完成した画風を示している。この⑥白文方印「雪村」を一つだけ押す群の作品は,画風から見て,<以天宗清像>よりも以前の制作と考えられる。というのは,早雲寺第2世大室宗碩賛の<撥墨山水図>に代表されるように,小田原,鎌倉時代の山水図は,主に撥墨描法が使われており,この時期に,雪村の山水表現が大きく変ったのではないかと推察されるからである。それで,この印章を使用した時期を,代表作品の名にちなんで,仮に「風涛時代」と名づけることにする。それでは,この⑥白文方印「雪村」よりも前に使われた印章は,何かというと,①朱文鼎印「雪村」,②朱文方印「雪村」,③白文瓢印「周継」,④朱文水差印「雪村」,⑤朱文円印「周継」の五つの印章ではないかと考える。これらの五つの印章は,あるときは単独に,また,あるときはそのうちの二,三を組合せて用いられ,それぞれ相互に関係して,一つのグループを構成している。これらの印章を押す作品が,前期の作品でく辛螺に春蘭図>の落款より,「中居斎時代」(第一期)と名づける。現在,14点の作品が確認されている。中居斎時代には,すでに村画の特徴である「奇思」(奇抜な構図)が現われている。そして,中国の院体画を学んだ跡が窺われる。(1555)の円覚寺第152世景初周随賛の「臥臥鳥図」では,⑨朱文壺印「雪村」が一つ72

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