鹿島美術研究 年報第2号
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ところでこれらの宮殿浮彫は,時代・制作地・様式などを考慮して,次のようなグループに分けて扱うことができると思われる。① アッシュールナツィルパル2世及びシャルマネセル3世時代の作品(紀元前9世紀前〜中期,主としてニムルード出土)。② ティグラトピレセル3世時代の作品(前8世紀半ば過ぎ,ニムルード出土)。③ サルゴン2世時代の作品(前8世紀末,コルサバード出土)。④ センナケリプ〜アッシュールバニパル時代の作品(前7世紀前〜中期,ニネヴェ出土)。これら4つのグループに属する作品の間には,表現様式の上から各々の特色を指摘することも可能であるが,今回は特に浮彫に扱われているテーマの面から考察を加えてみたい。グループごとに,主要な題材を列挙してみる。① アッシュールナツィルパルの宮殿の浮彫では,玉座室の正面壁面に「王権神授」の場面を表わした作品が据えられた。玉座室の他の壁面はすべて王の軍事遠征の様子を描く浮彫でおおわれた。多くは実戦描写だが,捕虜がアッシリア軍に引かれて行く場面などもある。宮殿の奥の一郭からは,王と従者,有翼の精霊(人間と同じ姿のものと,管頭人身のものとがある)がある種の宗教儀式に参加していると思われる様な形で並んでいる浮彫がまとまって出土した。なお,王のライオン狩り点),牡牛狩り(一点)の作品が知られている。シャルマネセル3世の「黒いオベリスク」は被征服地の人々が王に貢納物を運ぶところを写しているが,バラワート門扉では軍事遠征の様子が一貫して描かれている。② ティグラトピレセル3世時代の浮彫は,本来の所在地であるニムルード中央宮殿から出土した作品と,後に建てられた同南西宮殿から出土した作品があり,保存状態も必らずしも良好ではないが,ほとんどの作品が王の軍事遠征の様子を描写していることは明らかである。なお,王に対面するため並ぶアッシリア高官の列を写した作品も少例ながら残っている。③ コルサバードのサルゴン王の宮殿の浮彫のうち,現在知られている多くの作品は,サルゴン王とその従者,王に謁見するために並ぶ高官,廷臣たち,貢納物を運ぶ人々の列を表わしている。その他に,神に供物として捧げる山羊を抱いて神前に進み出ようとする人の姿や有翼の精霊(人間と同様の容姿)を表現したものもある。コル80

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