サバードのこの種の浮彫は,高さ3m弱と極端に規模が大きい。また少数ではあるが,森の中で鳥をもとめ狩りをする場面,地中海岸で木材輸送をする場面を扱った浮彫がある。後者は軍事遠征の際のエピソードのひとつと解釈することもできる。④ ニネヴェのセンナケリプ王の宮殿の浮彫では,専ら軍事遠征の有様が描写されている。水上戦の模様や山岳地にある砦の攻撃など場面は多彩ながら,すべて戦闘を題材にしたものと考えることができる。アッシュールバニパルの宮殿の浮彫には,戦闘場面及びそれにまつわるエピソードを扱ったもののほか,動物を扱ったものが相当数あり,後者は特に質的に優れている。有名な「ライオン狩り」のほか,追われて逃げる馬や鹿の様子を写したものが含まれる。このように4つのグループに分けた浮彫作品群を見て行くと,テーマの取扱いの上で注目すべき点が明らかになろう。まず言えることは,王の軍事遠征が浮彫が扱うテーマのなかで一貰して最も大きな比重を占めていることであろう。ここでは常にアッシリアの帝王がいかに強い力を持ち,恐ろしいものであるか,そして,いかに素晴らしい功績をあげたのかが強調されている。アッシリアの強さの表現である。なお,アッシュールナツィルパルの宮殿の戦闘場面を扱った浮彫では,ときおり王を先導するように画面上方に見えていたアッシュール神のシンボルは,私の検討した限りではティグラトピレセル以降の戦闘場面の浮彫からは姿を消している。紀元前7世紀の作例には全く見あたらず,留意すべき事柄と考えられる。次に注目しておきたいのが,前8世紀のサルゴンの宮殿浮彫に大きな比重を占めている王と王に謁見を求めて並ぶ人々の列の表現である。すでに前9世紀の浮彫のなかに同様の場面表現の端緒が見られ,コルサバード宮殿の浮彫において完成された様式を示している。私見ではその後は戦闘場面の中に再び吸収された模様である。しかし,後のアケメネス朝ペルシア時代に至り,ペルセポリスのアパダーナ基壇に王に謁見を求め或は朝貢物を運ぶため並ぶ人々の列が婉誕と浮彫で表されていることは,コルサバード宮殿の浮彫の伝統が決して途切れた訳ではないことを教えてくれる。ところで,宗教的色合が濃厚に感じられる場面の表現は,紀元前9世紀のアッシュールナツィルパル王の宮殿の浮彫ではとりわけ大きな比重を占めていた。ここに登場するのは王及びその従者,そして有翼の精霊である。有翼の精霊には,先にも述べたように人頭のものと骰頭のものがある。王は直立し,弓,矢などを持ち,或は右手をあげ祈りを棒げているような姿勢を示すときもあり,また或は直立または座像で杯を-81_
元のページ ../index.html#99