鹿島美術研究 年報第3号
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(3) 「ヨハネ」黙示録写本挿絵について研究者:大阪美術大学非常勤講師水島ヒロミ調査研究の目的:9世紀から14世紀にかけて制作された多数の「ヨハネ黙示録」挿絵は「黙示録註解」に加えられた挿絵も含め,既に様々な形で論じられている。それぞれの作例から特定の図像モティフを取り出し,それを手掛かりとして総論的に系統分類が試みられる場合にも,またテキスト本文からは解明出来ない個別の図像モティフに関してその典拠が探究される場合にも,その対象となるのは画像の主たる要素である“幻視されたイメージ”である。テキスト本文が象徴的性格の強いものだけに,このイメージの重要性は当然の事ながら,また一方で,これを形作る個々の図像モティフに関する研究に着手する以前の,図像モティフをつなぎとめ,一つの画像として成立させている要因についての基礎研究が不可欠であるように思われる。そこで(I)ある構成原理によって図像モティフが凝集された挿絵の場合と,反対に(II)拡散された図像モティフによる挿絵の場合を取り上げ,それぞれの写本挿絵について検討することを当面の研究課題とした。研究報告:(I) 「バンベルクの黙示録」写本挿絵「バンベルクの黙示録(バンベルク国立図書館ms.Bibl.140)」は,オットー朝時代に制作されたと見倣される黙示録挿絵の完本である。ラィヒェナウ派特有の大胆な金地と鮮やかな彩度の高い色調との対比は,静謡で神秘的な空間を作り出しており,多数の図像モティフから成る幻視イメージの象徴性を高めている。構成要素としての図像モティフのうち,説明的要素は捨象される傾向にあり,しかも説話場面に当てられる画面空間の変化期:すなわち横長の画面から縦長の画面への移行期に現われた特殊な構図法が,場面によっては用いられているため,テキスト本文の記述に対して必ずしも「文字通り」ではない。テキスト自体は構築性を欠いており,ちょうど他人の夢の説明を聞いているようなものであるから,各図像モティフ同士の関係はテキストの上ではあいまいである。従って,今日,ロマネスク壁画のノヴァーラやサン・サヴァン等と図像モティフの上で同系統として扱われている,この「バンベルクの黙示録」をある構成原理によって図像モティフが凝集された例として取り上げ,構図分析の対象とした。89 _

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