鹿島美術研究 年報第3号
111/258

が一般化するまでの神学上の動向と,図像モティフに次々と普遍的性格を付与し,象徴性を高めていく造形上の動きとの間に平行関係が成立するかどうか,これを証明することはそうたやすくない。(II) Vat. lat.39いわゆる「法王の聖書」挿絵拡散された図像モティフによる挿絵の例として研究対象に設定したのが,この「新約聖書(Vat.lat.39)」の黙示録部分に加えられた挿絵である。おそらく一度は何らかの形で統合されていたにもかかわらず,切り離されてコンテクストを失なった図像モティフによる挿絵であって,制立年代は13世紀前半もしくは後半と考えられている。図像モティフは各ページともテキストの余白部分,つまりこの場合テキストの上下左右に,様々に配置されており,具体的な作業にはまだ取りかかっていないが,図像モティフが切り離される以前の状態を推定出来るかどうか,現在のところ検討中である。(I)(II)の両項目とも,未だ資科収集の途中にあって,研究成果としてまとめるべき段階ではないが,現状報告として,現在までの分類作業の結果とした。(4) 仏師快慶の研究研究者:文化庁文化財保護部文化財調査官松島調査研究の目的:仏師快慶の出自あるいは後代の造仏界に多大の影脚を及ぼした繊細,流麗な安阿弥様形成の基本的要因,すなわぢ快慶芸術の母胎についてはなお解明すべき多くの問題点が残されている。さらに,近年,快慶の在銘作品や彼の周辺作家の安阿弥様三尺弥陀像がつぎつぎと発見されており,これら新資料に加え,従来,快慶作とされているすべての遺作にあらためて綿密な調査検討を加え,五十余年に及ぶ快慶の芸術活動の上に正しく位置づけようとするものである。研究報上記研究目的に沿い,快慶及びその周辺作家の作品のX線写真を含む写真資料等の収集と快慶の出自を裏付ける基本的文献の見直しとを併行しつつ,快慶在銘作品(東大寺僧形八幡神像,同寺公慶堂地蔵菩薩像,同寺俊乗堂,西方院,安養寺,光林寺,八葉蓮華寺等の三尺弥陀像)及無銘の安阿弥様弥陀像(新光明寺,大心寺,教恩寺,峯定寺等)を実査した。健-93 -

元のページ  ../index.html#111

このブックを見る