鹿島美術研究 年報第3号
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上記調査物件の中では,既に昭和58年に東京国立博物館で開かれた東大寺展に出陳された際に,その存在のみ確認された僧形八幡神像頭部内納入の木製五輪塔の形状・構造・彩色等について,X線透視写真やファイバースコープ等によって正確に把握できたことは大きな収獲であった。この五輪塔は,高9.8cm,桧材製で中央での左右二材矧とし,水輪部は球状に中を剖り,水晶製とみられる珠を嵌入している。表面は,空輪に白緑,風輪に黒,火輪に朱,水輪に白,地輪に黄土が賦彩してあり,各輪一字宛,上から辰・度・定・走・荏の五大種字を墨書。この面を後頭部に向け,丁寧に内剖りし丹彩を施した頭部内面部ほぼ中央に,空輪部を釘で地輪部を鎚で打ち付けて留めている。こうした鎚や釘を直接打付するというやや雑な五輪塔納入状況は,快慶初期作品の西方院阿弥陀如来像に類似の作として近年注目され,昨年重要文化財に指定された新光明寺阿弥陀如来像にもみられることが,X線透視撮影によって判明。しかもこの五輪塔も僧形八幡神像納入品と同様,水輪内部を剖り抜いて水晶製らしき珠を嵌入していることも分かり,両者の共通性を重く見たい。なお,僧形八幡神像像内に墨書された長文の銘記については,『六大寺大観東大寺三』の解説にその全文が解読掲載されているが,像内銘は内剖面の凹凸や虫蝕等のために判読困難なもので,今回も数種にわたって調査した結果,『大観』のそれといくつか異なる読みがあった。その相違は概してそれ程重視する必要がないが,中では膝裏ほぼ中央,結縁者名から一段下って書かれた二行,『大観』が「高余」「若信」と判読したところは、むしろ「高倉」「若狭」と読むべきように思われた。これらが果して結縁者名か地名かということも今後の検討課題の一つであろう。この他の作品実査に関しては特筆すべき新知見はなかったが,近年,文化庁,国立博物館,文化財研究所等で行われたX線透視写真や解体修理時の写真の収集によって,快慶の在銘作品には何らかの像内納入品がある場合が多いことがあらためて認識された。その一部は奈良国立博物館の『科学的方法による仏教美術の基礎調査研究』(昭57)で報告されているが,この他では,八葉蓮華寺,安養寺,光林寺,東大寺俊乗堂の各三尺弥陀像,藤田美術館地蔵菩薩像に経巻らしきものが像内に奉籠されていることが判明した。既に像内から取出されて保存されている諸像(ボストン美術館弥勒菩薩立像,遣迎院阿弥陀如来立像,金剛峯寺広目天立像,文殊院文殊菩薩及び侍者像中の中尊像,東寿院阿弥陀如来立像,ジャクソン・バーク蔵地蔵菩薩立像,大報恩寺阿難立像)を含-94 -

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