鹿島美術研究 年報第3号
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真景図><山海奇勝図巻>,金井鳥少卜1<藤橋篭渡之図><榛名山之図><月ヶ瀬探梅図>などが知られる。こうして見ると,地や経歴にしたがって地域的な偏差が見られる。富岳図や那智滝図のように,同じ題が同一画家によって繰り返し描かれることも多いが,真景図は,原則として実景に基いて描かれた作品を起源にしているといってよいだろう。つぎに,真景図を①紀行真景図②名勝図③画家が発見した真景ーーという三つの区分によって概観してみる。①紀行真景図は,大雅<陸隈奇勝図巻><三岳紀行図屏風>,高陽<山水図巻と畿旅行の絵日記>,玉洲<登岳画巻>,文麗<公館探勝図>,華山<四州真景図>,椿山<山海奇勝図巻>をはじめとして作例は多い。旅と読書は当時の南画家たちに共通の志向であり,武士,町人など異った身分の彼らの旅の動機は様々だったが,紀行は実景との出会いにおける感動の上に成立している。名勝図に旅中の取材によるものが多いが,紀行真景図には,日常的時間を逸脱した旅行者の目で,名勝だけでなく名もない景物を捕らえている場合もある。②名勝図は真景図の大部分を占めている。真景図が自然景観に対する感動に発する以上当然ともいえるが,このことは南画家たちがあらかじめ美的あるいは歴史的なある価値観をもって自然に対したことを意味しよう。古来の歌枕や名所絵の伝統に負うところが大きいが,南画家たちが彼らに特有の教養と美意識によって,新しい自然表現を生みだした点は見逃せない。例えば彼らは灌湘八景に因んだ八景図や十景,などをつくって自然表現に新しい形式を与え,奇勝図として彼らが発見した名勝図も少くない。③介石に<和佐真景図><在田橘林図><南山黄柑図>などの作品がある。前者は友人たちと和歌山近郊の小山に登った時の感想に基いたもので,後二者は紀州の蜜柑山を描いたものである。竹田の<稲川舟遊図>は,文雅の交りにおける感興が特定のを描かせた例である。これらの作品における真景は,画家の目や精神が発見した真景図というのがふさわしい。大雅のく浪華真景図>なども画家が発見した真景図とみなした方がよいのかも知れない。新たに見出された主題は,しばしば後続の画家たちによって踏襲され名勝図のレパートリーを広げることになる。真景図のこの三区分はコンベンショナルなもので,いずれかに整然と分類されるもは名勝図が大多数を占めることが明らかだが,画家の出身-124-

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