上部の人像グループと下部の羊たちによる象徴的表現グループという二重の構図間の相関関係について今日まで度々論議されながらも,最終的結論に未だ我々は至っていない。しかも7世紀の作例では,自然主義的な風景描写は完全に消えてゆく。として描かれた風景にはまず第一に地誌的(トポグラフィク)な機能が求められる。さらに象徴的機能が加わる。アプシス・プログラム中の自然描写も,地誌的(それが現実のものであれ,理想上のものであれ),及び象徴的な二重の役割をもつ。サンティ・コスマ・エ・ダミターノ教会アプシス図の二重構成の風景描写それぞれが,こうした二重の機能をもっていたはずである。さらに単にアプシス壁画のみならず,現存する4■ 6世紀の教会堂壁画を眺めると,こうしたこの二重の機能から生れたと思われる異った表現形式の自然描写が,巧みに使い分けられていたことが分かる。第一の表現形式ではサンティ・コスマ・エ・ダミアーノ教会をはじめ,ラヴェンナのサン・ヴィターレ教会,サンタポリナーレ・イン・クラッセ教会など6世紀の諸アプシス壁画に見られる牧歌的な自然描写である。そして特にテッサロニキのホシオス・ダヴィド教会のアプシス・モザイクの場合,旧約の工ゼキエル書47章やイザヤ書25章との関連が指摘される銘文をもち,生命の泉たる教会,魂をいやす家(オイコス)たる教会という初期キリスト教時代のエクレシア(教会)概念を,アプシス壁面を介していわば地誌的(トポグラフィク)に明示したものとなっている。第二の表現形式は「概念化された自然」とも言えるものである。四李の植物(花々,麦の穂,果実,オリーヴの枝)の花環に収められた神の小羊,その周辺に配された鳥や獣たち,星や空という装飾的な自然描写である。ローマのラテラノ大聖堂内福音書記者ヨハネ礼拝堂の弯窪天井,ナポリのサン・ジョヴァンニ・イン・フォンテ洗礼堂円蓋カプアのサン・プリスコ教会内サンタ・マトロナ礼拝堂弯窪天井,テッサロニキのアギオス・ゲオルギオス教会円蓋など,5 ■ 6世紀のモザイク壁画に作例がある。特にラヴェンナのサン:ヴィターレ教会の場合,四天使にかかえられた花環中の神の小羊とその周辺の動植物モチーフのアラベスクを示す内陣天井装飾は,その奥のアプシス壁面の自然描写と,明らかな対応関係を見せている。ラテラノ大聖堂の礼拝堂(5世紀中葉)の弯窪天井では,四季の花採の花環中の神の小羊,その周辺に配された鳩,おうむ,山うづら,鴨の四種の鳥は,ミヌキウス・フェリクスやラクタンティウスの著述から明らかなように,四季,四元素,四方位を表わし,四季の巡りの表現となっ-138-
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