楽」のテーマを考察の対象に選び,(1)どのような状況が類型として確立し,一方どのような状況が画題にとりあげられなかったか,またその選択と排除は何に基づくものなのか,(2)これらのテーマを扱った作品の背後にひそむ教訓的・寓意的意味内容はいかなるものなのか,(3)これらのテーマを扱った作品は現実の状況をどこまで忠実に反映しているのか,すなわちどこまで社会史・生活史の資料として活用できるものなのか,の各点に探りを入れてみた。研究報告:(1) 諸類型医師とひと口に言っても,当時においては学位を有し,専ら病状の診断にあたる内科医(dokter,medicus)と,外傷の治療と手術を担当する外科医(chirurgijn),及びその下級の存在で,髭剃り・散髪を主に担当しながら時には潟血や小手術も施していた床屋医者(barbier)ははっきりと区別されており,また両者の社会的地位にも越えがたい差があった。この他,その技能の特殊性ゆえに各都市のギルドの規制の対象外とされ,各地を巡回していた底競や結石の専門医,怪し気な薬を売りつけつつ,時には有効な民間療法も広めた無免許のにせ医者(kwakzalver)がおり,また内科医と密接に関連した職業には,その指示に従って薬を調合する薬剤師があった。ここでは医師の登場する風俗画を,こうした医師の職種によって分類・整理することにする。(a) 内科医内科医の登場する風俗画には,(i)医師自身の仕事場を舞台にしたもの,(ii)患者の家の室内を舞台にしたもの(いわゆる「医師の往診」の主題),の2種類がある。(i) 仕事場の医師医師の年齢はさまざまで,服装も帽子には数種の変化が見られるが,大半の場合,非常に長いガウンをまとっている。姿勢としては机に向って坐っているものと立っているものとがある。診断の方法としては,患者の持参したフラスコ形の尿瓶を陽光に向けてかざしている例が大半である。机の上や窓際には,医学書や学位記などと並んで,頭蓋骨,懐中時計,火の消えたロウソクなど,いわゆる「ヴアニタス」(人生のはかなさ)の寓意につきもののモティーフが見られることが多い。患者は医師の傍らに立って診断の結果を待っている。第三の人物(医師の助〔1〕医師143-
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