鹿島美術研究 年報第3号
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示したのと同じような類型学的調査を17世紀オランダ風俗画の他の主題についても展開してゆく所存である。(15) 南北朝・室町時代(14世紀後半〜16世紀前半)における障屏画ー大和絵系を中心とする一の調査研究研究者:跡見学園女子大学美大美術史学科教授安達啓調査研究の目的:14世紀後半から16世紀前半は障屏画に於ては,桃山時代以降一般化する六曲一双形式屏風の成立や,土佐派や狩野派など近世の絵画に直結する流派の結成を含む,重大な変動の時期であった。しかし,従来この時代は,漢画系絵画の研究が先行し,遺品の少ない大和絵系障屏画の研究の基礎的研究はあまりなされていなかった。しかし,その領域の作例が屏風絵を中心にして少なからず発見され紹介されてきた現時点において,寺院の壁画なども含めた作例の実査(データの作成,写真撮影)による資料蒐集をはじめとする体系的,基礎的究明が行われるべきであると考えられる。その結果,中世の大画面絵画の自立的な展開が明らかになるのみならず,この時代特有の絵仏師をも含めた流派や作画領域の混涌の実態や古代からの伝統の継承,近世へ向けてその解体過程等を知ることができるであろう。流派・様式・技法・画題やモティーフ等の諸問題等,資料となるべきものを敢えて広く総合的に蒐集したいと考える。研究報告:現時点では,60年度調査による蒐集データ(写真資料を含む)を整理する段階であり,ここでは本研究の研究テーマに沿って多様な問題点を提出すると考えられる「鶴林寺本堂杉戸障子絵花鳥図八面」の調査報告,その他を中心に述べることとし,さらにより詳しい研究報告が完成した時点で再提出したい。1.鶴林寺本堂杉戸障子絵八面は,申請時の計画書に於て,R群「寺院堂塔壁画関係」の室町初期とみられる作例として本研究の調査研究対象作例に組み込まれた。しかし,対象としたR群の作例の大部分が多様ながらも佛教的画題で占められているのに対して,鶴林寺の作例は,第一に花鳥画的モティーフを有する点,第二に壁面やいわゆる板扉ではなくて移動可能な板障子(戸襖),特に杉戸障子に描かれた作例である点等が,⑧群「障子絵・屏風絵」の領域とも画題上,形質上通じ合う要素を示すものとしてその様式的関連性や,さらに中世寺院建築内部装飾とモティーフの問_149-

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