鹿島美術研究 年報第3号
181/258

(18) オランダ19• 20世紀における絵画,彫刻,工芸建築の研究(継続)1)ファン・ゴッホ国際シンポジウム発表「ファン・ゴッホと19世紀オランダの神学19世紀オランダにおいては1870年に至るまで,牧師たちが文化的指導者の地位を保研究者:大阪大学大学院博士課程閲府寺調査研究の目的:オランダ19世紀,20世紀芸術を,絵画,彫刻,工芸,建築という多局面から把え,いまだスタンダードワークのないオランダ近代芸術史の全般的研究を行なう。具体的には,オランダのロマン派,ハーグ派,アムステルダム派,デ・ステイル,また綜合芸術概念の発現としての建築などを研究対象とする。文献収集,未刊行資料の調査及び作品調査を中心とし,オランダ芸術史(近代)としてまとめるための基礎研究を行なう。研究報告:本年度中に2度,ファン・ゴッホに関する研究発表の機会があった。それぞれのテーマに関連して行なった調査内容と成果を以下に記す。者」(1985年10月,東京)っており,そのことは例えば当時の最も重要な美術雑誌Kunstkronijkの内容を見ても明らかである。この雑誌の寄稿者の多くは牧師であり,彼らが絵によせて書く文や詩は,近代的な美術雑誌のそれとは全く異なる。80年代にフランスから近代的美術批評が入って以来,].]. L.テン・カーテ,N.ベーツといった牧師=詩人らは厳しく批判され急速に忘れられていった。そのため,今日では牧師=詩人たちの時代についての研究は極めて乏しく,彼らの著作を探すことが困難でさえある。ファン・ゴッホの画業に先だち,これまで注目されることの殆んどなかった,このような文化的状況は,ファン・ゴッホらの世代に明確な痕跡を残している。多くの学者や芸術家が,牧師たちの文化を否定しながらも,自らの仕事のなかに牧師的性格を保ち続けることになる。一度は牧師になることを志し,当時広く尊敬されていた説教師の耳を傾けたファン・ゴッホも,キリスト教系学校の教師を父にもったモンドリアンも,この「牧師の息子たち」の世代に属する。ファン・ゴッホの作品に見られる牧師文化の痕跡としては,教会モチーフの操作が具体例としてあげられる。このモチーフは,種まく人,刈る人といった聖書的意味を含んだモチーフの背景にしばしば描かれており,更に興味深いことには,このモチーフはある一定の時期(1887-88年)司-163-

元のページ  ../index.html#181

このブックを見る