(19) 説話芸術の時間的論的構造の研究研究代表者:神戸大学文学部助教授百橋明穂調査研究の目的:説話芸術における時間論的構造の解明は,まずもってその芸術特質を知るために役立つが,更にそこから視覚芸術一般と時間との関りを明らかにする重要な分析概念の獲得を目指す。加えて本研究は美術史学一般に,次のような寄与を成すことが出来る。釈とにかかわっており,この二元論の克服に大いに貢献する。2)最近の記号論的文学の構造分析的研究とあいまって説話芸術の時間論的構造の分析は,文学と視覚芸術研究とを結びつけることになろう。3)説話芸術研究は,美術史研究において洋の東西を問わず一致できる唯一のテーマであり,そこに両者の美術研究の成果と方法論を交流させることができる。研究報告:説話芸術における時間及び時間表現について,これまでは美術作品の形式の分析にのみ注意が払われ,その説話の内容や説話のストーリイの展開との関連において解釈が行われることが少なかった。今回の研究班はその点に重点を置き,概括的な抽象論ではなく,具体的な説話画作品を取り上げて分析することとした。各研究員は,それぞれに与えられた作品を十分に分析し,研究会において発表し,その成果を,討論・検討した。研究会は都合四回行い,満足すべき成果が得られた。その結果印刷され,世にその成果を公表した論文も少なくない。しかしメンバーの重要な一員である辻成史氏が一年にわたる海外出張にでかけ研究会に出席することが出来ないなど困難も多かった。第一回研究会は五月二十一日に東京で,第二回は七月十六日,第三回は十一月二日いずれも神戸大学において,第四回は四月十九日に静岡において開催した。まず辻成史氏が西洋の説話芸術の時間的構造の流れについて発表した。即ち西洋における挿絵の場合,テキストと挿絵の関係はまずテキストの研究から始った。ホメロスやギリシャ神話・1)視覚芸術の時間論的構造は一方では形式の問題であるが,他方説話内容とその解東京国立博物館研究員千野香織奈良大学文学部講師塩出貴美子大阪大学文学部助教授辻テキストを研究する写本学であった。パピルスに書かれたテキストを成史-166-
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