ジェロの全体の構想とほぼ符号し,この礼拝堂及び近くの同画家によるパオリーナ礼拝堂壁画の内容とも関連し,これまでの文書で最も説得力のあるものと考えられる。詳細は論文で書くつもりであるが,これだけでも今回の調査の大きな収獲であったといえる。研究報告:東京芸術大学音楽学部教授若桑みどり1.システィーナ礼拝堂天井フレスコ(ミケランジェロ)の修復状況について。私は1985年7月27日,12時から2時まで現在修復中のフレスコを,足場にのぼって直接に観察することができました。すでにルネッタ(半月形壁面)に描かれたくキリストの先祖たち〉の修復が完了し,現在は礼拝堂入口側の天井部,すなわちく預言者ザカリア〉<巫女デルフィカ〉(<預言者ヨエル〉は,テレビ撮影のため,まだ手がつけられていませんでした)と二面の三角小間すなわちくユーディットとホロフェルネ〉くダヴィデとゴリアテ〉の修復が終り,中央部<創世紀〉の連作の最終場面(制作順序としては最初のもの)の修復途中であります。このうち,最初の物語である<ノアの泥酔〉はまだ手が付けられておらず,その四隅にあるいわゆる<青年裸体像(イニューディ)〉が修復されたばかりのところであります。私が出会い,説明を受けた修復士(ルッチ,ボネッティ,ブルーノ)の説明によりますと,<預言者ザカリア〉は修復半ばで保留されており,現在のところいくつかの疑問点を解決できない段階ということであります。これはまず第一に,ミケランジェロ自身の筆によるものかどうか判然としない“描き直し”が発見されたこと。それは,ザカリアの肩と腕の部分にかけて,かなり大きい部分の描き直しがはっきりと認められることで明らかであり,作業はこの状態が何人の目にも明白であるような状態のまま中断されています。それは,多くの学者,修復家の意見を求め,公正な判断を待っという目的のためであります。この点に関しては,(l)ミケランジェロ自身が,出来上がったのちに,造形的目的のために変更を行なった。(2)同時代の助手が変更を行なった。(3)後世の修復士がこれを行なった,という三点が予想されます。この三つの問題は,ミケランジェロ自身がしばしばア・フレスコではなく,セッコを用いているということによって一層解決が困難になり,この天井画の全体を通して,今後もっとも深刻な論議を呼ぶものと予想されます。その理由は,かつてのルネッタ部分は,ミケランジェロの慎筆によって描かれたこ-207 -
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