鹿島美術研究 年報第3号
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午前10時半頃より午後2時まで,マンチネッリ氏らの説明をも聴きながら作品を観察することができた。またこの際,マンチネッリ,ボルスーク氏らとの意見交換も行なった。ート・シェナ,アレッツォ,コルトーナの各地で研究。スライド撮影も行なったが,新しく購入したフラッシュの欠陥のために,残念ながらより資料を得ることはできなかった。フィレンツェとローマにおいては,実地作品研究に加えて,ローマのヘルツィアーナ,ヴィルチェッリアーナ,パラッツォ・ヴェネツィアの諸図書館において,またフイレンツェのドイツ美術史研究所及びハーヴァード大学ルネサンス研究所ヴィッラ・イ・タッティ(招待)において研究に従事した。ミラーノではカトリック大学の諸研究者,教授との意見交換と文献調査を行なった。現在イタリア各地では作品の修復とそれに伴う種々の展覧会が開催されている。修復に関しては,今後共,続けて渡伊し研究に従事することの必要性も強く感じた。ヴァティカーノのシスティーナ礼拝堂にあっても,マンチネッリ氏や修復家のコッラルッチ,ロッシ,ボネッティ氏らも言われるように,現段階では,修復に関する科学的,技法的な面での新事実の公表こそ可能であるが,図像,色彩の意味その他の研究を押し進めることは至って危検であり(推測を伴うことであるから),そうした綜合的な研究は,修復完成後に初めて行なわれるべきであろう。現時点では,足場において,ごく近くからフレスコ画を観察できるということを重視して顔料の,あるいは筆の用い方の特徴などを,下絵と最終的絵画との関係などにも注目しながら捉えてお〈必要があると思われた。日本テレビの撮影進行に合わせて修復が行なわれるために,10月時点では予定より少し作業が遅れており,本年内に足場の移動はないであろう(予定では年末移動ということであったが)とのことであった。次の〈ノアの洪水》の修復は,ミケランジェロのフレスコ技法の解明にあたっては,非常に重要な鍵を握っているものと思われる。15世紀に制作された壁画に関連して,ルーカ・シニョレッリの壁画や板絵を,ロレ-211-

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