(2) 壁画保存修復技術の研究派遣研究者:腕絵画保存研究所絵画修復部主任小林嘉樹調査研究の目的:近年日本では,西洋絵画の古典とされていたフレスコ技法やテンペラ技法などに注目する作家がふえてきている。彼らの中には,古典絵画の再現を行うもの,あるいは現代絵画技法と古典技法の混用を行うものなど絵画技法も多様化してきている。従って保存修復の領域も,このような絵画をも今後対象にせざるを得ず。ますます広がる一方である。一方日本にある古墳壁画や障壁画の保存問題も正しい知識と技術を修得している修復家によって検討されなければならない。これらの問題に対応する知識と技術を身につけることが現代の修復家として急務になってきている。を対象として環境,化学,保存修復技術のすべてに亘る理論と実際のトレーニングコースである。さらに世界各国からの参加者それぞれの立場での問題提起により,広い視野とその対応策が得られる国際的な保存修復の規範と運用法を習得し,日本に於いて一層多様化する修復作業に対処することができると思われる。研究報1.はじめに壁画は本来動かせないもので,その場所(建物)とともに,時間(歴史)をも含めた文化財の一部をなすものである。壁から絵画層を剥ぎ取り,イーゼルペインティングのように美術館なり環境の整備された場所に移すことは可能で,過去にその例は多い。しかしすべてが満足するような状態にあるわけではない。保存のためになされた処置にもかかわらず,その技術上のリスクのため,崩壊に瀕しているものも少なくない。壁画を,出来得るかぎり現地で保存することを念頭に置き,ICCROMでの研修,各地での調査修復を通して保存修復の規範とそれに裏打ちされた技術とを研究した。国の研究者(米,仏,英,独,伊,オーストリア,ポルトガル,ルーマニア,キプロス,スリランカ,ブラジル,コロンビア,エジプト)14名と共に研修を始めた。イタICCROMのコースは,入門的なコースではなく,5年以上の経験のある保存修復家2. ICCROMでの研修ICCROMとはユネスコの下部機関で,文化財保存修復国際センターである。昭和60年2月より,ICCROMの代表的なコースのひとつである壁画の保存修復コースにて各-212-
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