研究報告:セブールを囲む状況フランスは寡黙になりがちな自国文化の活性化にむけて,いくつかの実験をやろうとしだしたようである。政府による文化交流計画でも,いま世に何が起っているか,を多分野にわたってさぐろうとしている。その余波が日本の陶芸界にまで,それも従来の伝統紹介一辺倒を抜けでて,同時代の動きに及んできた観がある。仏文化省は陶芸の世界での外国や異分野との交流の受皿として,82年,「創造と実験のための研究アトリエ」を創設した。同アトリエヘの人選委員会の委員長,パリ国立芸術大学教授(自らもテラコッタによる人体彫刻を造る)ジョージ・ジャンクロウー行は,いまカリフォルニアと日本のものが最も面白いと,日本へも足をのばしてきた。私のアトリエと大学を一日かけて訪ねてくれ,日本の新動向に積極的に触れようとした。彼らの来訪がきっかけとなって,このほど三ヶ月ばかり制作と講演をする機会をもった。完成品は美術館で買上げたり,場合によっては工場で生産にうつすのだという。住居つき同居アトリエは,パリ郊外,サンクルーの森をひかえた国立セブール製陶エ場の広い敷地内に,国立陶磁博物館,附属図書資料館,陶芸学校,材料研究所と併設されていた。この工場は1759年以来,セブール焼を造り続けてきた超高温で焼かれた透き徹るように白磁の上に,ブルーを塗っての金文様や,タブローさなからに細密画を手描きした官廷趣味の流れをくむ食器,花器,そして人物を主題にした焼締磁器の置物などを,採算性・生産性,度外視かのように入念に造っていた。ごく薄造りのシュガーポットひとつにしても,厚さ2センチばかりの円筒状の磁土の塊を内外両側から削りだして成形,器の各部位の厚さをコンパスで計測,内外のカブを金属板をあてて確かめる入念さ。このロクロの活用法にも,日本や韓国がロクロをひきながら,生れでた形態を活かそうとしてきたのとは対照的に,フランス式庭園の刈込でデザイン同様,自然素材をも人間の意図に従わせんとする造形哲学を見ることができ興味深かった。また石音型を古くから多用してきたらしく,その収納大倉庫には19世紀の制作年を記入したものなど,何万個と整理されているさまは,歴史の蓄積を感じさせ壮観であった。しかし歴史の蓄積とはいえ,元宮廷御用達調は既に使う場を狭め,国家の贈答や在現国立で,1410度の-225-
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