ー25ラの『作品』を読んで非常に感動しています。その時から自分はゾラのものは全部読むつもりだということを,弟に言っております。このことは,1883年の手紙に出て来るのですが,それ以後もゾラが新しい小説を出す度に,『生きる歓び』であるとか,有名な『作品』(美術界の裏話)ゾラの場合には,当時のフランスの小説の刊行の習慣に従って最初は,雑誌と言いますか,新聞と言いますか,2週間に1遍ずつ出る定期刊行物・週刊誌と雑誌の合の子みたいなものにずっと連載で出ているものを読んで,本になったらまた読むとか,次々と……大変熱心に読んでおります。それからフロベールの『ボヴァリー夫人』とか,モーパッサンの『死よりも強し』とか『ベラミ』といった作品か,彼の手紙の中にしばしば登場して参ります。それから日本では忘れられていますが,当時は大変にフランスでよく読まれていたゴンクール兄弟の小説を大変熱心に読んでおり,彼が特に惹かれたのは,『ジェルミニー・ラセルトゥ』です。『ジェルミニー・ラセルトゥ』は,丁度ディケンズのフランス版といってもよい。これは19世紀中頃の貧しい召使いのジェルミニーという女性が子供の時から苦労して人に騒され折角貯めたお金を取りあげられたり,悪い男に騎されたりしながら一生苦労して行く話しで,当時は大都会としてのパリやロンドンは,丁度今日のような姿を見せる時期で,産業革命の成果として例えば鉄道が走り,ガス灯が並んだり,工場が建ったり,どんどん変化が作られていく時代で,それと共に新しい都会の華やかな一面と,その裏の貧しい労働者の姿をゴンクールは極めて冷静に容赦なく描き出しているわけです。このほか『いとしい女』あるいは『娼婦エリザ』なども大変熱心に読んでおります。これらの作品に対するゴッホの関心は,彼が読書好きで,大変文学にも愛着をもっていたということの反映であります。それが作品に一体どう反映しているかというのが,一つの問題であります。彼は文学作品を非常に熱心に読んでいながら,同時に彼の作品の中にもはっきりと痕跡を残しております。ゴッホの生涯の作品の数は多いが,そのほとんどは三つのジャンルに分けることが出来ます。それは人物画と静物画と風景画,やや例外的な宗教画と呼んでいいようなものがありますがこれはほとんどが模写であります。彼自身が選んだ主題というのは,静物,人物,風景,つまり非常に自然主義的というか,目の前にある世界をそのまま描き出す,その意味では19世紀の自然主義文学と共通するものがあります。その中で特に静物画では組み合わせたものもありますが,本が登場して来るのが非常に多いのです。そのことは彼の関心を極めて明確に裏付けております。その本もおそらくゴッホの場合には,自分の関心があるものを思い切って画面に取り上げるということを
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