鹿島美術研究 年報第3号
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第2回研究報告会報告要旨1.「逸り立つ馬上で平静な」ーナポレオン時代の美術に関する試論一明治学院大学専任講師鈴木杜幾子美術史上のすべての様式区分と同様に,新古典主義とロマン主義の境界も,時代的にもまた質的にも明快に定義することは困難である。最大公約数的な定義としては,新古典主義美術とは,芸術は自然を理想化して模倣せねばならないが,そのための手段としては,既に自然の理想的表現として完璧なギリシア(ローマ)美術を模倣すればよいという理念に立つ美術で,1750年代のローマにおける,ヴィンケルマンやメングスによる理論化と実践を経て,1780年代のフランスのダヴィッドによって絵画の分野での完成を見たとされる。一方ロマン主義芸術は,近代社会の全般的な発展に伴い,またフランス命やナポレオンの遠征などを直接的原因として,外界が精神的・空間的に拡大し複雑化したことに対して,新古典主義的な理念のみによっては対応し切れなくなった芸術家たちが,様々に異なる個性的な反応を行なうようになった結果の多様な芸術であると考えられよう。これは18世紀末から文学・美術の分野において散発的な兆候を示すが,フランス絵画におけるその本格的発展は19世紀初頭のグロ,ジェリコーを経て,この二つの様式の交替の触媒として重要な役割を果たしたのがナポレオン時代の美術であるが,その全容は到底短時日では調査できない。今回の発表では,ナポレオンの美術行政及びナポレオンとダヴィッドとの関係について,これまでに学び得たことを整理し今後の研究の出発点としたい。1820年代の若きドラクロワによって達成されるとするのが定説である。私見によれば,-37 -報告中の鈴木杜幾子氏

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