鹿島美術研究 年報第3号
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3.フランク・ステラの作品における形態の展開について2.ステラに限らず,日本においては,欧米の現代美術の紹介は,極めて表面的なも3. 1987年秋に,ニューヨーク近代美術館で開催されるフランク・ステラの大回顧展ルオーの銅版画におけるmatiere研究の本質的成果が,1930年代以降晩年まで続けられる後期油彩画の中に如何なる形で吸収・統合されていったのか(あるいは否か)という疑問に端を発している。したがって本研究の眼目は油彩画matiさreの構造究明にある。このことを「受難」の油彩画と木版原画との比較研究をとおして,具体的に解明してみたい。あわせて前述の2つの仮説をも究明してみたい。すなわち,晩年の彫刻的な油彩画のmatiさreは,negativeなmatiさreの無数の集積の結果ではないかという仮説と,銅版画おいて生まれた「悲劇性の光」は油彩画では「象徴としての色彩」へと変容したのではないかという仮説である。研究者:国立国際美術館研究員尾野正晴研究目的:1.フランク・ステラの作品は,戦後アメリカ美術の最もフォーマルな部分を担ってきた。したがって,彼の作品を詳細に分析することは,そのまま戦後アメリカ美術におけるフォーマリズムの系譜をたどることになる。と同時に,フォーマリズムがモダニズムの産物であることを考えれば,それは,最も今日的なモダニズムの問題にかかわることにもなる。のにとどまっている。日本の現代美術が世界の美術の正系とはなり得ずに地方的なものに甘んじているのも,自国の美術をはじめとした世界の美術の正系に全く無知な点にあると思われる。世界の現代美術の正系であるステラの作品分析を中心テーマにとりあげることは,日本の現代美術の活性化のために必要不可欠なことなのである。は近作のレリーフ・コンストラクションが中心となるが,本研究はニューヨーク展の一助となるため,日本におけるステラの作品の所蔵状況の調査を兼ねている。-46-

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