鹿島美術研究 年報第3号
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7.中世蒔絵史の研究8.中国唐代の花葉文と日本上代彫刻の装飾におけるその受容と展開研究者:文化庁文化財保護部文化財調査官鈴木規夫研究目的:中世の蒔絵は,奈良〜平安時代の伝統を基調としながら,技術の飛躍的な発達をとげ,これとともに意匠や画面構成などにおいても多様な表現が見られるようになる。その大きな要因としては,時代の変革による蒔絵の普及や,中国・朝鮮との盛んな交流からもたらされた文物の影牌も無視できない。そこでは,古代的なるものから近世的なるものへの転換の大きなうねりがあり,転換期特有の多様な発展が認められる。又一方,作者に視点を向けてみると,蒔絵師の社会的地位の上昇に伴って,蒔絵師の家系が成立してくる。このような中世蒔絵については多くの先学が論究されているわけであるが,未だその実態解明には至っていない。もちろんそこには,工芸の常として,文献史料や基準作品の少いことが禍わいしていることは否めない。本研究では,基礎的な文献史料や写真資料の収集,実物の詳細な調査を踏まえて,美術史的様式研究により,中世蒔絵の様式編年を進めると共に,蒔絵師の家系の違いからくる流派の様式研究を通して,その動向・実態を考究する。研究者:慶應義塾大学文学研究科博士課程在学水本咲子研究目的:中国の花葉文は,美術史研究の一分野としても,従来採り上げられてきたが,近年の発掘により年代の明確な資料はかなり増加し,花葉文は編年的にその発展過程を辿ることができるようになった。これらの新資料から花葉文の展開とその特質を考えるのが主目的である。一方,中国と日本との影閥関係をより緻密に究明することも課題となる。例えば,上代彫刻の制作年代を推定する為には,従来は文献史料と彫刻様式の両面から詳細な分析が加えられてきたものの,これに付された装飾文様(主として花葉文)に関しては,あまり注目されることがなかった。上代彫刻の様式研究では中国からの影縛が重要な問題点として認識されているが,中央の事例に関しては,日中双方に遺品が比較的豊富で,綿密な比較検討が可能であり,殊に花葉文のもつ価値は極めて高いといえ-49

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