鹿島美術研究 年報第3号
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特性の把握,及び「描かれた芸術家」としての両者の扱いから,ドイツ・ロマン派美術にとっての彼らの意味,そしてそこに投影されるロマン派の芸術的態度を考えたい。14.尚古集成館における島津家資料の調査研究一江戸時代鹿児島における狩野派絵画を中心に一研究代表者:鹿児島大学教育学部助教授研究目的:鎌倉時代より,鹿児島の文化において中心的存在である島津家の資料が所蔵されている尚古集成館の絵画に関する資料(文献も含めて)の美術史的見地に立った実証的調査を基本として,鹿児島の絵画の伝統は世に知られた明治時代の洋画に始まるのではなく,それ以前の絵画の流れに始まっていることを究明するのが最終的な目的である。そして,その伝統の中で生み出された鹿児島の絵画には,他の地域とは異なる鹿児島的特質,精神が一貫して認められることを解明したい。まず,尚古集成館所蔵の絵画に関する資料調査ということは,大きな意義を持っていると思われる。それは,これらの資料が島津家資料であるという点である。島津家は鎌倉時代に鹿児島へ来て以来,この地の政治的,文化的中心であった。その中心的存在の島津家に遺された絵画資料が今日の尚古集成館の資料である。そしてこの資料が現在,その内容把握においてほとんど未調査であることに問題がある。そこで,まず,尚古集成館の絵画に関する資料すべてにおいて,実見することを通して,それらの資料を各時代に分類し,内容を把握する必要がある。このことによって,鹿児島の絵画の流れの中心を見ることができるとも言えるのである。つまり,鹿児島の文化の中心的存在である島津家に遣された絵画に関する資料は,鹿児島の絵画史の主流を形成すると思われるからである。この意味で,未調査の尚古集成館の絵画資料についての調査研究の意義と価値が認識されよう。そして,そのような絵画資料の中でも特に数も多い,江戸時代の狩野派木村探元の研究を進めて行くのである。探元の絵画様式は,探幽の流れを汲む伝統的な江戸狩野様式の中に,室町時代の雪舟系水墨画(鹿児島では秋月等観が受け継いでいる)をも取り入れたやや剛直な表現の狩野派と受け取られている。しかし,彼の作風研究を中心とした研究は,現在充分に行われていない。そこで,尚古集成館の絵画資料を中心に,この江戸時代の中心的画人(鹿児島における)である。木村探元を中心に狩野派永田雄次郎-54 -

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