浜秀16.冨田渓仙の研究17.スキト・シベリア動物意匠の研究研究者:福岡大学人文学部教授古川智次研究目的:様々な試みを行った淫仙の模索時代は,いわば画家深仙の骨格が形成された時期であり,その意味で本研究は近代日本画史上の特異な存在とみなされる淫仙を解明するうえでの重要なポイントであると考える。また,この時期は,なにも淫仙のみが模索したわけではなく,日本画界全体が伝統と新たな創造との間で様々にゆれ動いた時代でもあったが,しかしこの時期の実態は実のところ十分に解明されているとはいえず,従って本研究のテーマは,当然のことながら,当時の日本画界,特に京都画壇の実相解明にもつながるものである。研究者:東京国立博物館東洋課主任研究官研究目的.. 今回の研究は,イラン及び中国北部の資料の調査を中心に行う予定であるが,それは,日本にも資料が多く所蔵されているという理由だけによるのではない。スキト・シベリア動物意匠の研究全体にとって,これらの地域は極めて重要なのである。スキタイ美術の源流はイランを主とする西アジアの美術にあるとする説があるが,これを検証するには,ルリスタン青銅器や伝ジヴィエ出土品などのイラン資料を調査しなければならない。また中国北部の資料からは,ソ連で研究されているよりも直接的な確実な年代の手がかりを得る可能性がある。この時期のシベリアの編年は,黒海沿岸のスキタイ文化を基礎として組み立てられているが,中国の資料を使うことにより,それを改正し,或いは一層確実なものとすることもできるであろう。例えばオルドス青銅器に表現された動物意匠には,中国の類例から見て,黒海沿岸のスキタイ文化よりも古いと考えられるものがあるが,これは,スキト・シベリア動物意匠の起源を明らかにする上で重要である。中国北部は,単に西方からの影響を受けたのではなく,独自の様式を創り出したのであり,それが西方に影響を及ぼしたことも予想されるのである。このような例を累積し,それをソ連における発見例と比較対照することにより,スキト・シベリア動物意匠の起源と展開,そしてその影閻関係について,従来とは異なった観点からの成果がもたらされることを期待している。56 -
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