鹿島美術研究 年報第3号
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第1の目的は「白描伊勢物語絵」の依拠した祖本の制作年代を復元推定し,これを20.エトワルド・ムンクの自画像集成の試みー自画像論の考察に基づいて一ても考察し,複難な様相を呈する鎌倉彫刻史の一端を明らかにしたい。研究者:静岡県立美術館学芸課長下山研究目的:自画像芸術のまとまった研究書は極めて数が少なく,邦訳文献も1,2に留まる(そのひとつが拙訳の「巨匠たちの自画像」ガッサー著である)。だが,筆者が「近代日本の自画像」展(京都市美術館)を企画する過程で実感したように,極めて観念(コンセプト)化した現代芸術は自己表現の様式を求めあぐねて混迷し,再び自画像形式を過去の美術史に探索し始めたように思われる。古今を問わず,芸術制作は自己と外界との二元的拮抗をその糧とすべきもので,その場合,作者の個人的な心的状況を如何に作風に反映させるかが課題となる。かような意味で,自画像の問題性は,芸術をめぐる永遠の問題なのだが,美術史学のスペシャリストも,これをエピソード風にしか語らないのが現状である。筆者はこれまで,自画像芸術が肖像芸術一般とは異なる所以を論究して来たが,当然ながら具体的な自画像例の分類整理を自画像論の基礎とする必要に追られた。ヴェッツォルトの「肖像芸術」のような概説書にとどまらず,デューラー,レンブラント,ベックマンのような自画像の大家たちの,作例に則した自画像制作の展開過程の理論づけが求められ,それぞれの文献調査を重ねて来たが,とりわけムンクこそが,自画像史を今日に繋ぐ中心人物であるとの実感を得るにいたった。その作例はオスロ美術館の遺贈作を遂ー検証するほかには全貌を得がたいが,仮りにそれが実現されるなら「筆者の貧しい自画像論に依拠するものだが)美術史学・芸術学の一隅を従来にない視点で照明することは疑いない。21.「白描伊勢物語絵」を通して見た初期物語絵の研究研究者:学習院大学人文科学研究科博士課程在学池田研究目的.. 遺品の少ない12世紀物語絵の一資料に加え,更にさかのぼって平安時代物語絵の初期的形態とその展開を考える手がかりとすることである。これは従来の研究はもっぱら-58 -忍

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