鹿島美術研究 年報第3号
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第2の目的は,祖本たる彩色伊勢物語絵を鎌倉時代初期に白描絵に写し変えたのは,22.日本美術史・建築史用語の「和英辞典」の編纂(継続)個々の現存遺品の解明に集中しておりこれらを文献による時代考察を併せてひとつの流れにまとめることはようやく始ったばかりと言える。その点ではこの「白描伊勢物語絵」の復元的考察と12世紀におけるその系列をたどる試みはその解明の一端緒となるであろう。職業的専門画人というより絵画愛好者たる男女貴人の手すさびと推測されるので,この点を作品自体の詳細な技法的・様式的分析によって実証的に解明していくことである。この種の制作はすでに平安時代以来認められるものではあるか,鎌倉前期官廷貴人の王朝文化への復古的意志を背景としているとも解せられ,これが鎌倉時代における白描絵の展開に如何なる意味を持つかということも重要な研究課題の一つである。研究代表者:千葉大学工学部研究生工学博士研究目的:近年,世界各国の日本の伝統美術に対する関心は深まる一方であり,外国在住の日本美術研究者の層も厚くなり,テーマも多方面にわたっている。このため,日本美術史について正確な知識をもたらす英文による用語辞典は,必要欠くべからざるものであるのだが,これまではそれがなく,海外の研究者は大変に不便な思いをしてきた。辞典が作られなかったのは,ひとえに日本語の壁が厚かったことによるものであり,この辞典が完成すれば,海外の研究者や初学者にとって大変な福音となる。同時にこうした日本美術研究の盛行は,日本の研究者が海外で研究発表し,論議する機会も増大させているが,そうした場合も,日本の伝統,風土に根ざした美術史上の用語をどのように翻訳すればよいか,常に問題となってきた。こうした海外で発表する日本人研究者にとっても,この辞典は有用なものである。さらに,日本美術史上の用語は,日本人の精神,文化,生活と分かち難く結びついているため,単に美術史研究のみならず歴史,哲学,宗教,民族,民俗,建築士,文学などあらゆる分野の日本文化研究の中で登場してくるものであり,それゆえに正確な知識をもたらす用語辞典の需要は広範なものであると考えられる。加えて,美術史,建築史と幅広い内容を持つこの辞典は,日本美術,日本文学をはじめ各種日本文献を英文に翻訳する際,これまで,ぱらばらだった美術用語の記述に-59 -ペーレント,メリー・ネーバー

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